ラブラドールの誓い2007-10-24

マット・ヘイグ   ランダムハウス講談社   840円

最初に言っておく。ラブラドールより、絶対ゴールデンのほうが忠実なんだい!
一緒に暮らすのならゴールデンが最高だ。異議は認めないぞ。

などと書くには訳がある。
この本で描かれているラブラドールのプリンス君。
あまりにも健気で忠実で家族想いで、すばらしい犬なのだ。
こんな書き方されると、ラブラドール会の友人・知人に、
ゴールデンからラブに宗旨替えを迫られそうなので、
先制して防御線を張って見せてのである。

犬の視点から、英国家族のあり方を見つめている。
現代の家族が持っている脆弱な関係の問題が見て取れる作品だ。
英国に限らず、先進国といわれる国々の家族崩壊は、
止めようがないほど進行している。
日本でも、離婚件数はうなぎのぼりに増え、
子どもへの虐待、夫婦間虐待、老人虐待、
それこそ崩壊していない家族がいるのか?
なんて不安になってしまう報道ばかり目にしている。

ハンター家の飼い犬プリンスは、4人家族と暮らしている。
ラブラドールの誓いという、すべてのラブラドールが義務として守らねばならない戒律に従い、
老いたヘンリーを師匠とし、家族を守るために全力を尽くしている。
同居する猫の人間に対する関心の少なさに憤りを感じたり、
数々の誘惑派をもたらすイングリッシュスプリンガースパニエルとラブラドールのMIXフォールスタッフに悩まされながらも、
ハンター家の安全を守るため、行動している。

うわべは幸せに見えるハンター家にも小さな亀裂の種はある。
プリンスは亀裂をふさぐための努力を惜しまない。
だが、ハンター家には危険な匂いが忍び寄ってきていて、
崩壊の危機にさらされることとなる。
必死で食い止めようとしたプリンスは、
ついにラブラドールの誓いを破ってまで、家族を守ろうと決心した。
だが、その果てに彼が見てしまったものはむなしく悲しい運命だった。

ラブラドール好きにはたまらない一冊だと思います。
やんちゃで輝く目の下に、プリンスのような慈愛が隠されていると知れば、
あらためて愛犬を抱き締め呟くことでしょう。
『生涯、大事にするから、見捨てないでね。』
この魅力あふれるプリンスの悲しい結末を引き起こさせないために、
私たちができることはないのか?
出るはずのない答えに戸惑います。

最後にもう一度、ゴールデンのほうが絶対忠実だって!

家族ペット2007-10-24

山田昌弘   文藝春秋   552円

『希望格差社会』の著者が分析したペット論。
副題は『ダンナよりペットが大切!?』

そんな当たり前のこと言わんでも、なんて感じる人も多いのかな?
なんといっても、ペットは癒しを与えてくれるけれど、
人間なんて感情にささくれ立ったことしでかしてばかり、だもんね。
猫好きや鳥好き爬虫類好きはいざ知らず、
犬が好きな人に限って言えば、親が死ぬより愛犬が死ぬほうが堪えるかもと思う人、多いんじゃないかな?
斯く言う僕もそうなんです。
父が死んだことと、『ごお』が死んだこと比べたら、
後に引きずる思いは、限りなく『ごお』へのすまなさが勝ってしまいます。

でも、犬への思いを遡っていけば、
『ごお』以前には、そんな感覚はなかったように思います。
成長とともに、日本が変わってきて、
外飼いが当たり前だった時代、野良犬が溢れかえっていた時代から
野良犬を見かけなくなり、放し飼いの犬もいなくなり、
室内飼いが当たり前の時代になり、
純血種が溢れかえる次代になりました。
僕も時代の狂騒に染まって行ったのかもしれません。
ちゅうか、かなり先頭集団にいたのかもしれません。
ちょっと調子が悪いといえば獣医に連れて行くようになって、早や40年。
室内飼いを始めだして35年。
遺体を野山に埋めていたのが清掃局に依頼するようになり、
ついには霊園に納めてしまうようになって30年。
ペットホテルを利用し出して、早や25年。
クルマに乗せてあちこち出かけ出して、20年。
犬連れ旅行をしだして15年。
ペットシッターを利用するようになって10年。
サービスが誕生すると利用しだしている。

犬が老いたといっては、体によい食事を必死で探し、サプリを与え、
一度病に陥れば、数10万円単位の出費を抱え、
費用捻出のために自分の生活すら犠牲にしていく。
その心のありようは、人間と変わらぬ扱いに限りなく近づいている。

この著作を読みながら、僕の中にある矛盾が氷解した思いがしています。
人間の家族が崩壊したから、ペットが家族になっている。
「子は鎹」ならぬ「ペットはかすがい」の世になってしまっているのだ。

先端サービスやインタビューも豊富に収められた本書の登場で、
空前のペットブームが、何故起きているのかがわかります。
ペットが日本を救う。
これが現実化する日も近いのかもしれません。

ところで、『家族ペット』になったからこそ、
犬を大切に思うあまり、人を蔑ろにしてしまう例まで発生しています。
こうした点まで突っ込んでくれなかったのが残念です。
保護活動については言及があるけれど、
理念のない活動までは想定していなかったんでしょうね。

孟賞君22007-10-24

宮城谷昌光   講談社   1553円

古本屋で手に入れました。105円でした。
結構きれいなのでなんか得した気分。

1巻の感想は↓
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2007/08/17/1731418

2巻目も、相変わらず風洪が主人公のよう。

風洪に助けられた田文は秦に預けられている。
風洪は義弟の成功に触発され、学をなそうと決意する。
義弟の薦めもあり、し子と号される人物にし師事するため各国に捜索の行脚を行う。
秦、斉、魏などを放浪する中、
田文と一緒に置かれていた女児の正体を知り、
あの惨殺が政治的陰謀によりなされたと知る。
恩人の斉巨も、かの事件に関連して殺されたものと知る。

白圭と名を改めたのち、因縁から政治的陰謀で犠牲となった者たちの、
縁者が繰り広げる復讐劇に手を貸すところまでが2巻である。

孫子との邂逅も書かれる。