ゆめつげ2008-06-20

畠中恵   新潮社    580円

しゃばけシリーズで人気の著者の近刊文庫。
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http://kumaneko.asablo.jp/blog/2006/03/02/275268
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http://kumaneko.asablo.jp/blog/2008/03/03/2688097
しゃばけシリーズは文庫化されたものは読んできた。
『ゆめつげ』も、しゃばけシリーズかなと思って読むことにしたが、
全く別のものであり、しかも長編だった。
似ているところは、舞台が江戸時代の江戸という点と、
主人公がちょっと不思議な力を持っているお人好しさんというところ。

小さな神社に一人の宮司と兄弟禰宜(神官)がいる。名は弓月と信行。
しっかり者の弟に、ちょっと頼りないけど、夢占いが達者の兄・弓月。
神社のほうは井戸の蓋は腐っているし、
雨漏りはするしで、金が入用で仕方がない。

そんな神社に格式の高い神社から権宮司・彰彦が訪れてきて、
夢告(夢占い=ゆめつげ)で、行方不明の子どもを見てと依頼する。
父・宮司に結構な額の礼金を提示されたものだから、
弓月は依頼を断ることもできずに夢告をする。
そうしたところ、見当はずれな結果が出たにも拘らず、
彰彦は、依頼には仔細があるので神社まで来てくれという。

いやな予感を感じつつも、神社に向かう兄弟。
道中、辻斬りに出会い、岡っ引きに危うく助けられたりと、
予感は現実になっていく。

着いた神社では、大金持ちの札差夫婦と彰彦のほか、
3人の子どもとその親がいた。
依頼は札差の子どもを特定して暮れとのことである。

弓月は仕方なく夢告を試みるが、出た答えは誰もいないという結果。
納まり切らぬ一同は、再度の夢告を要請した。
そしたら今度はそれらしい姿が見えた。
結果に戸惑いながらも、一同は、それぞれの主張を繰り返す。
そうこうするうちに一人の親が殺害され、
一同の周りには不穏の影が。

短期間に夢告を繰り返す弓月は夢に捉えられて行くしで、
混沌としていく中、ついに二人目の犠牲者も出て、
ついには軟禁状態になっていく。

幕末の世情を絡ませた判じ物は、やがて意外な結末を迎える。

人情味に溢れる佳作です。

それにしても彰彦が弓月に拘る理由。
夢告ができる能力の保持での血のつながり、
弓月が序盤で漏らした『赤の他人』が正しいと思うのだけどね。