パコと魔法の絵本2009-09-14

関口尚   幻冬舎文庫   495円

2006年発表の「空をつかむまで」で第22回坪田譲治文学賞を受賞したことのある1972年生まれの作家。
 後藤ひろひと原作の舞台『MIDSUMMER CAROL ガマ王子vsザリガニ魔人』を小説に構成しなおした作品となる。2008年に映画が公開され、それに合わせるようにして発表された。
 この作品を語るのには、いささか弁解をしておく必要がある。僕はこういう作品はどっちかというと苦手なのだ。小説と演劇では表現手法が異なる。ことする表現形式のものを、同じようにして再構成するのは難しい。おそらくこの小説も、舞台と映画のイメージをそのまま小説化しようとしたのだろう。小説の中での人の変化が唐突に過ぎ、薄っぺらの印象を感じてしまうのだ。人は容易く変わることは無いはず。なのに些細なきっかけで激変していい人になる過程が説明はされているもののしっくりとしない。演劇ベースゆえに登場人物も極端に少なく、人と人の関係性がいいびつなものとも思う。こういうところに引っかかってしまっては、この小説に辛口になるのも仕方ないということだ。
 あるいはこの小説を大人のものと考えず、子供向けのものとして捉えてはどうか。やはりすっきりとしない。ブタ印らではのデフォルメされた人物に臭みを感じて仕方ない。この物語が子供向けとして優れたものとは思えないのだ。もちろん主人公となる大貫が、他人を見下す態度を、パコという少女の無垢の姿と境遇に打たれ変えたという点は評価する。でも、その少女が読む絵本の存在自体が馴染めないものとして残る。やはり子供向けとしてさえよいものとは思えないのだ。
 そういうわけでこの本はくだらないものと思う。演劇や映画を見たら印象は変わるのかもしれないが、小説という表現で見も限り評価すべき点は全く無いと思う。

 このように言ってしまったものの、ストーリーそのものは悪くない。よくある悔悛物語としてみたら
一応体裁は整っている。そういう意味では予定調和的であるし、読後感がまずいものとなっってい無いところは評価できよう。

起業した大貫は苦労を重ねた末、いつしか巨大グループの総帥になっていた。仕事一筋に生きてきた彼は結婚さえしていず、ひたすら自身のみを頼みに生きていた。そんな彼が心臓に持病を抱えて入院することになった。入院患者も、医師も、看護婦も、なんだかへんてこなものばかり。ただでさえ人嫌いな大貫はいっそう凝り固まって人を見下そうとしている。
そんな彼はある日天使のような少女を見かける。他人に対して優しくするすべのない大貫は、その少女にすら意地悪をする。しかし天真爛漫な少女に惹かれ、彼女の読む絵本を読んであげることになっった。次の日、また少女に出会ったとき、彼は誤解から少女を殴ってしまう。しかし、その少女は事故で両親を一挙に失ったばかりか、事故の後遺症で一日しか記憶が持たない病気だと知る。悔悟する大貫。また次の日であったとき、少女は信じられないことに大貫が前にも頬を触ったねと尋ねる。
大貫は自分のことだけを記憶している少女を見て、自分にできることはしようと決意する。そんな大貫を見て、大貫にひどい目に合わされていた他の入院患者も看護婦も大貫を見直し始める。…そして病院中を舞台にした一大イベントが開催される。大貫の持病が心配される中、イベントは進み、そして…。

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