きな子2010-07-22

百瀬しのぶ   小学館   457円(税抜き)

実話を基にした作品だという。まもなく映画が公開されるらしい。

冒頭で、警察犬を従え迷子を捜す捜索場面か語られる。
状況が悪くなる現場で、みなが捜索を断念しようとする中、
1組のチームが、あきらめず捜索を続行する。
結果、子供を発見、保護する。
その不屈のチームはエルフというラブラドールと
訓練士・望月遼一だった。
他の捜索チームには望月の元で修行し独立した番場も参加していた。弟子・番場も望月のあきらめない姿勢に、
警察犬訓練士としての本質をあらためて思い知るのだった。

望月たちの活躍はニュースとなって流される。
その放送を熱心に見つめる幼い目があった。
望月の娘・杏子である。
杏子は帰宅してきた望月に抱きつき『おとんのようになる。』と誓う。
しかし、望月は病没。
杏子は父からの手ほどきを受けられなかったが、
それでも誓いを果すべく見習い訓練士として修行に入ることとなった。修行先は番場警察犬訓練所。
父と番場の関係を知らないまま、
無口な番場に戸惑いながら住み込み修行が始まった。
そして1頭の体の弱い、命の息吹の弱い子犬と出会う。
杏子はその子犬に惹かれ、
きな子と名づけ、警察犬にすると決意する。
その杏子の奮闘と挫折、
そして再起までを追うドキュメントタッチの小説だ。

杏子の周りには、遼一との関係が深い、
無骨だけれど優しさを秘めた番場他の大人がいる。
先輩訓練士の卵も、なんだかんだと人が良い。
番場の家族たちも杏子に対して期待をしている。
そうした者たちに導かれ、
ゆっくりとではあるがきな子と杏子は成長していく。
そして警察犬試験に臨む。
ところがその場で大失敗したことが、きな子と杏子の成長を歪ませる。そのときの失敗が放送されたことで人気者になってしまい、
注目されたことからきな子がタレント犬としてスカウトされ、
杏子は自分の考えが甘すぎたと悩み、きな子と別れる決心をする。
そして訓練士への夢も捨て去るのだ。

きな子はタレント犬として大成功を収めるものの、
杏子と別れたことがさびしい。
一方、杏子はきな子への罪悪感を持ちながら苦しみもがき続ける。
そんな時、望月の古い友人の計らいで
凱旋公演の日に杏子は出くわすこととなる。
そこである事件が起きて…

世に悪人はいない。そういう甘さが、
きれいごとに過ぎるように感じるものの、良くできた話と思う。
ただ、全般に警察犬への適正云々が強調されすぎているように思う。確かに警察犬であれ、盲導犬であれ、
なんであれ仕事をする犬はスーパードッグと思われがちだが
、実のところ犬の潜在能力を引き出せさえすれば、
その差は優秀な家庭犬であることとの間でとても小さい。
むしろ優秀な家庭犬である事だってスーパードッグなのだと思う。
その意味では、
この著作ではある種の誤解を生じさせるのではないかと疑う。
『ごお』から『そらん』との暮らしで感じたことが、
この著作への違和感を生ませる。素直には褒める気にさせない。