寝台特急2010-07-27

24日から25日に宮城県は松島に行かねばならなかった。

生来、飛行機嫌いなので、
よほどのことでないと飛行機には乗りたくない。
だからぼくの旅行は陸路での移動となる。

松島までは、うちの家からでは6時間以上掛る。
12時には到着しないといけないので、
新幹線の乗り継ぎではかなりきつい。
飛行機を利用しようかと考えたが、
やはり気が進まない。
と、言って高速を使ってクルマで移動というのも、
この歳になるときつすぎる。
それに犬たちをなんにちも預けるのもためらう。

で考えた末、前日から夜行で東京に出ることを考えた。
でも、バスは昨年の宇都宮行きで懲りている。
いくらリクライニングが良くなったってしんどいものはしんどい。
前泊するほかないかと考えていたところ、
見つけたのが寝台特急。
サンライズ瀬戸が大阪から乗りこめることがわかった。

寝台列車は機会があれば使いたくて仕方ない。
そういう嗜好がぼくにはある。
鉄路を走るゴトゴトという音がたまらない。
明け方の白くなっていく車窓がしゃれている。
7-8年前くらいだったかに、
東京から別府に移動した際に『あさひ』を利用して以来の寝台車。
わくわくとして予約を入れた。

やはり良いね。
体を横たえて列車に揺られて、
レールの音に呼吸を合わせて、
シンクロしたとき眠りに入る。
それから白明で目覚める。

どんどん夜行列車は本数を減らしているけれど、
あの情緒が味わえなくなってしまうのは、あまりに寂しい。
できたら、昔みたいに長い停車で、
駅構内で売り子が窓越しにそばを売りに来る。
そうしたのんびり感が欲しい。

いつからか速度ばかりを重視するようになってしまったけれど、
10代の頃のように、夜行列車のたびをゆっくりとしてみたいなと思う。
でも、大阪発の夜行列車は、
今回乗った『サンライズ瀬戸(出雲)』以外には
『日本海』『きたぐに』『トワイライトエキスプレス』だけ。
退職するまでに乗る機会はあるのかな。

死亡フラグが立ちました2010-07-27

七尾与史   宝島社   552円(税抜き)

 何も考えずに読んだなら楽しいぞ。

細部まで読み込もうと思う人は手にとらないのが吉。
うっかり買ってしまうと途中で破り捨てたくなってしまうかも。
ぼくも実は途中で、「んがぁ、んなばかな!読んでられっか。」
と、なりました。

それでも最後まで読んだのは、
テンポのよさとシーン切り替えの巧みさによる。
読み終えての評価は、評価の埒外であるというもの。
ミステリ・サスペンスとして成立していないし、
サイキッカーものというわけでもない。
ホラーとしても成立しないし、ジャンル・レスなんでしょうね。

『このミス大賞』の最終候補に残ったということですが、
そのときにはこの文庫の倍の分量であって、
冗長に過ぎるという講評がなされている。
それでも随所に光るものがあり、
隠しだまとして出版することになった。

出版に当たっては、エピソードを大幅に削るという改稿が施され、
スピード感重視の作品となったということのようです。
この文庫版で、時折奇妙なずれが感じられるのも、
スピード感重視のあまり、
それぞれのエピソードへの伏線が
適切な場所に存在しなくなったためかと思う。
しかし、スピードで読ませるタイプの作品だけに、
伏線が削られなかったら
軽い読み方ができなくなってしまうことに繋がるのだろう。

作品自体は、
ある組長の死が事故とされていながらも不自然さが漂うことから、
都市伝説じみた『死神』と呼ばれる殺し屋との疑念があり、
『死神』を追う必要に迫られたライター・陣内が、
先輩の天才投資家・本宮の助けも借りながら、
スクープを狙い追いかけるものがメインストーリーとなる。
そのストーリーに、
妄想刑事と呼ばれる板橋と新米刑事の御室が
疑惑の代議士秘書の市の謎をを追う視点と、
過去の文学作品に自身を投影する南山宇美の視点、
そして真由という少女の日常生活が描かれる視点が絡んでいく。

物語が進むにつれメインストーリーに
他の視点が合流していく仕組みは、手法的には成功している。
が、肝心の「死神」の造形が、
完全なる未来予知能力があったとしても
犯罪達成不可能な点が瑕疵となる。
一件あたりの殺人報酬が100万円では、
ここで語られるような手口は絶対に成立させえない。
与太話としてさえ成立し得ない。

だから、この作品を読むのなら、絶対に疑問を持たずに、
ひたすら会話を楽しむことで読むほかないだろうと思う。
読者がバカになりきれるのなら、このスピード感は心地よい。

それにしても読者にバカになルことを要求することで
成立する小説ってありなんだろうか?

黒猫曰く、メイドは微笑む2010-07-27

三輪山 和     幻冬舎    945円(税込)

 著者は、幻狼ファンタジアノベルス学生新人大賞に入選した20歳の学生。入選作品は『CとDの螺旋』というものであり、本ノべルとは内容が異なるようだ。賞の講評では、吸血種と人間が登場するとしているが、この作品では人間は登場してこない。また舞台としての設定は受賞作では第十三王都郊外とされているが、本ノベルではどうやらふつうに日本列島のどこかのように思える。講評の『焦点を当てるキャラをぶらさず、描き切る』との指摘を受けて改稿したものと思われる。 
 人語を話す黒猫と超絶的美人にして博識かつ地上最強の格闘者とも言えるメイドに、人として暮らしていたが実は吸血種の血を引く美青年・志野斎、異常なものを刈る”狩猟者”が登場人物。4人の関係がそれぞれにはっきりしていないので、読んでいてフラストレーションを感じてしまうのが難点だが、黒猫の語り口が楽しい。
 メイドが超人的すぎるため人の世からはじき出されていること、黒猫は猫でありながら人語を操るために異端であること、斎は人の血をすう衝動のために異端であること、その異端性ゆえにそれぞれに闇を抱えている。狩猟者は、そうした人の社会を壊すものを排除する存在として、斎を狩るものとして登場する。設定自体は興味深いし、黒猫とメイドの会話もしゃれていて読ませる。が、メイドのありようには何の説明もなされていないので、何百年も前に人の世に隠れたはずの吸血主を何故知っているのかなど謎ばかりが深まる。この作品の終わり方から考えると、続編が書かれることもありうるので、底で謎が解き明かされるのかもしれない。なんにせよメイドも斎同様人にあらざるものということだろう。
斎に対して、例え人を殺すことになったとして生きるために何かを犠牲にして当然というせりふをスマートに提示させるためには、人以外のものである必要があったのだろうが、黒猫も猫である必要はなんらない。
作品は黒猫が語るものとなっているので、黒猫が人に置き換えられてしまうと、妙にエロチックになってしまうだろうから、黒猫であることでエロスを配していられるというものではあるが、斎という吸血種が参加してきた以上、次回作品には背徳や退廃の香が入り込んでくることも予想される。
 黒猫はメイドに対して尊大な態度をとっているが、実はメイドに従属しているように感じてしまう点も気になる。それぞれに種を超えたものが手を取り合うところで終わっているが、この話の行きようでは破綻だけしかないように思うのだが、作者が続編を書き続けるのであれば、どういう未来を用意しているのか興味深い。