読書記録8月-9月2011-10-01

靖国への帰還               内田康夫
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サニーサイドエッグ            荻原浩
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2011/09/14/6102905
神様のパズル 機本伸司
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妖怪アパートの幽雅な日常 6     香月日輪
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荒野 (全3巻)                桜庭一樹
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天を衝く  全3巻             高橋克彦
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雷の季節の終わりに           恒川光太郎
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彼女がその名を知らない鳥たち    沼田まほかる    
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2011/08/01/6000956
猫鳴り                    沼田まほかる
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サッカーボーイズ14歳 蝉時雨のグラウンド はらだみずき
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2011/09/13/6101276
もう誘拐なんてしない           東川篤哉
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2011/08/02/6005729
ゴメンナサイ 日高由香  
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義経になった男(全4巻) 平谷美樹
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ソロモンの犬 道尾秀介
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絶望中学 山本俊輔
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絶叫仮面 吉見知子
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ボトルネック 米澤穂信
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忍びの国 和田竜 
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2011/09/28/6116695


ちょっと頑張って感想なりを書いてみたものの、
リハビリが完了していない。
文がまとまらん。

依然として読了のものが100冊程度残っている。
去年サボったからなあ。
解消を目指して、リハビリをする。


7月まで
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2011/07/28/5987704
過去の記録
2005-2006年
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2006/10/09/553572
2007年
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2007/12/31/2538811
2008年
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2008/12/31/4026421
2009年
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2010/01/01/4789822
2010年
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2010/10/31/5459709

犬のおまわりさん2011-10-01


永森裕二 原案 柳雪花 著   竹書房   619円(別)

書店で見かけると、つい買ってしまうのがイヌネコ本。
何度も失敗したと悔やんでいるのだから、
買わなければよいものを、また買ってしまった。
このコンビの作品には、幼獣マメシバ (全2巻)    
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2009/08/06/4481035
もあった。
前作では、それなりに楽しめたが、今作はどうにもこうにも、
読み終えて脱力感でいっぱいなのである。
古いギャグなら”犬の卒倒”、つまりパターン化してしまっている。
映画が公開されているが、
そちらなら面白いというか、魅せるだろう。
ゴールデンの子犬のかわいさは、圧倒的な破壊力を持つだろう。
映像化された時、子犬、あるいは子猫、どちらでもだが、
圧倒的な支持を得られるのだ。
低予算ならホラーと成人映画、それからペットは常識のようだ。

竹書房から出されている永森裕二原案、もしくは著の作品群は、
映像にしたら、それなりに楽しい作品になろう。
倉木佐斗志との共著「犬飼さんちの犬」 (上下2巻)       
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2011/01/20/5642389
「その後の犬飼さん家の犬」 
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2011/07/19/5962830
も、読んでいるけれど、同じような展開を進む。
コミカルななかに、少しほろりとさせられる話が挿入されてもいる。
だから笑える要素満載の当たり外れ外れのない。同じような水準になる。
これらの作品は、映像化を前提としていて、その脚本といえ、
小説として単体で読むには奥行きも広がりも不足する。
読めばすぐに着地点も読めるし、展開も画一的となる。

本作も内容は単純だ。
交番勤務の警察官が、少年から落とし物として子犬を受け取る。
受け取ってから先輩から聞かされ気づいたのは、
犬は拾得物としては管理できない。センターでは一週間で殺処分。
殺処分はかわいそうだから、仕方なく自宅で世話しながら、
何とか飼い主を見つけ出そうとする物語になる。
犬は好きだが、触れあった経験のない彼が、
子犬との生活で数々の失敗をするあたりはコミカルである。
すべての登場人物が犬というものを通した関係性の中でつながっていく。

内容的には何もない平板な物語ではあるが、
ハッピーエンドで締めくくられるので、読後感は悪くない。

9月の走行距離2011-10-02

台風が2度も着たから今月は犬遊びが控えめ。
だから走行距離も控えめ。

9月は1296キロキロ。
犬たちは約630キロキロの移動。

ヴェルファイアでの通算走行距離は25255キロになった。
今年になっての走行距離は約15400キロ。
犬たちも今年に入って約8300キロ乗車した。

2005年のロケットボーイズ2011-10-03

五十嵐貴久    双葉社    750円

本作は2006年に「ロケットボーイズ」というタイトルでテレビ放送されたそうだ。
過去に読んだ五十嵐作品は、井伊直弼が部屋住みの折の鬱屈から、
ある姫への懸想を起こし、一藩を陰謀により窮地に貶める「安政5年の大脱走」と、
ダメな野球部が一人の天才投手が転校してきたことから、
依存から自立に向かうなかで変わっていく姿を描いた「1985年の奇跡 」
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2009/03/07/4157669
の2冊がある。
いづれも大変によくできている作品だった。

この五十嵐貴久、経歴を見れば只者ではないのである。
本作だけではなく、202年のデビュー作「リカ」から
「交渉人」や「パパとムスメの7日間戦争」と、
青春小説からホラーにサスペンスと、多芸な作風を持っている。
この人の筆は次々に映像化されている。
人気作家のひとりになっているのだ。

「2005年のロケットボーイズ」は「1985年の奇跡」同様の、
学校生活に倦んでいる者たちの物語だ。
最初は、いやいや、取り組むこととなったが、
つながること、立ち向かうこと、
そうした前向きさで難関をクリアしていく物語になっている。

高校入試直前に事故にあい、本命の高校に入学できず、
工業高校に通うこととなった梶屋信介が語り部となる。
不本意入学のため愚痴を言い暮らしているうちに、
学校の有力者から不用な人物として宣告を受けたカジシン。
ごく少数の仲間とともに、パチンコ屋通いに喫煙と、
だらだらとした毎日を過ごしている。
仲間の一人がセットしたコンパで泥酔した挙句、
急性アルコール中毒で病院に運ばれる。

退院して学校に戻れば、思ったより寛大な処分が待っていた。
ただしキューブサットを作ることが条件となっていた。
仲間のゴタンダと一計を案じ、賞金を餌に優等生の大先生に図面を書かせる。
それが、なんと大絶賛、入賞する。
しかも賞金額は倍になっていた。
大先生には内緒で増えた賞金をゴタンダと二人で分け合って、
大散財をした挙句に所持金は底をつく。
そんな折、実は賞金は実際のものを作るための支度金との性格だったと知らされる。
辞退するには賞金の返納をしなければならない。
使ってしまったものは返せない。
何とかして設計の大先生を説得して、前に進んでいくしかない。
さて、カジシンたちの前途には何が待っているのか。

この小説の中では素行不良な学生や、
問題のある優等生や天才が登場する。
妙に義理堅く無口な落第生の翔さんなんて魅力的すぎる。
学校外からの助っ人も魅力的。
カジシンの元カノ彩子は、優等生だったのに高校進学を拒否している。
綾子の周辺にはあたくな大学生がひしめいている。
カジシンの祖父は優秀な技術者だったが、経営者としては失格者。
親父は、引きこもり。

一癖も二癖もある連中とともに、
キューブサット製作は進んでいく。

人生のターニングポイントを見出した者たちの、
きらめく青春が、なんといっても気持ちいい。

人工衛星の製作という物理学など子難しい知識が読むのに必要と
敬遠する向きがあるかな。
本作においては、まったくそんなものは関係なく進みます。
お気楽に読んでさわやかん余韻。
ええですなあ。

覇王の番人 (上下2巻)2011-10-09

真保裕一    講談社    各762円(別)

1961年生まれの真保氏は1991年に「連鎖」で江戸川乱歩賞を受賞している。
以後、吉川英治文学新人賞、このミス1位、山本周五郎賞、新田次郎文学賞短編集
など多くの文学賞を得ている。
また、「ドラえもん」や「鋼の錬金術師」には脚本で参加している。
映画『ホワイトアウト』の原作者としても知られるが、
現在までに出版された著作は30作品を少し超えた程度である。
作家歴は20年に達するが、作品数は専業作家としては少なめと思う。
結構な人気作家だと思うのだが、残念ながら読んだのは「取引」しかない。
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2008/11/24/3973749

「覇王の番人」は、戦国時代を題材とする歴史ミステリとなる。
明智光秀を主人公に、日本史上最大のミステリと目される、
本能寺の変のなぞ解きを行う。

本能寺の変は、作家であれば一度は題材に取り入れてしまうものだ。
信長への光秀の私怨説から、朝廷の陰謀説、
信長の命によるものなど、
まあ、珍説・奇説入り乱れていて楽しい。

「覇王の番人」の場合、これまでの作家が描きだした世界を、
集大成するようなものとなっている。
新機軸といえるのは、朝廷の陰謀も匂わせながら、
光秀と近しいある男が、秀吉と結託し、光秀を唆してしまうところであろう。
本能寺の変を、信長への光秀謀反に導かせるために、
毛利、秀吉、朝廷を諜報によって牛耳っていくところなど、
ありえたかもしれないと思わせるだけのものにはしている。
もう一点としては情報の価値を高く評価したところ。
忍びを物語の前面に据え、光秀の織田家中での躍進は、
忍びの情報収集力と光秀の分析能力にあったとする点だ。
影の主役・小平太の活躍は読みどころになる。

信長・秀吉・光秀などの事績については、
後世の余計な挿話とみられるところは省き、
事実のみを採録して書かれている。
そのことで、より人の欲深さが浮き上がっており、
人の作り出す歪みを描き出す壮大な物語となっている。

抜群の家臣統率力を有していたとされる光秀は、
武将としての能力も高く、抜群の行政手腕も持ち、
かつ一流の教養人としても有名である。
そのうえで慈愛の人で公正無私。
これほどのスーパースターであったかは、少々疑問である。

信長を描く場合、旧来の権威や慣習を否定した革新性が評価される。
兵農分離をすすめ、領地に縛られない兵団の運用、
意思決定を合議からトップダウンに変えたこと、
能力が高ければ家柄などを無視し抜擢したことなど、
変革者としての面が魅力としてとらえられている。
徹底した合理主義者であり、成果主義、能力評価による、
家臣団の才を搾り取るさまは、経営者層の支持が高い。
しかし一方で、意思決定の迅速さや地域性を無視した政策は、
ともすれば不要な衝突を生み出したと推測させる。

真保氏が、光秀を通して語る信長像は、
それら成果・能力主義の欠点を顕にさせている。
別に光秀のような上司がいいとは言わないが、
昨今の成果能力主義は行き過ぎと感じているので、
そのあたりから同意できる。

今しばらくの安静が必要。2011-10-09

先週、「そらん」の暴走で階段から落ちた。
落ちた調子にお尻を強打した。

痛い。

木曜、痛みが引かないので病院に行った。
レントゲンでは骨には異常なし。
まずは寝て治すしかない。

でも、椅子に座るのも大変。
立ったり、座ったりするたびに脂汗がにじむ。
寝る時も工夫がいる。
大の字ではねられません。

今週はドッグランには行けない。
さすがの「そらん」も理由がわかっているだけに、
昨日、今日と、折檻しには来ていない。

守護天使2011-10-10

上村佑    宝島社    476円(別)

1956年生まれ。現代詩人の鮎川信夫を叔父に持つ。
コピーライター、ゲーム制作、キャリアコンサルタントなどを経て、
2007年に第2回日本ラブストーリー大賞に応募し、
大賞を受賞し作家デビュー。
『守護天使』は、2009年に映画化されている。

禿げ、デブ、貧乏。
稼ぎは女房のほうが多いから、当然のごとく尻に敷かれている。
当然のごとく子供たちからもばかにされ、
毎日の小遣い500円でカツカツの生活を送る
どうしようもなくうだつの上がらない中年男・須賀啓一が主人公。

毎日の通勤で、電車の中でよく見かける美しい女子高生に恋をする。
生まれて初めてとも言える恋に燃えた啓一は、
何の天啓があったのか、彼女を陰ながら見守ろうと決心した。

その思い込みの対象とされたのは宮野涼子。
有名なお嬢様学校、F女学院に通う高校生だ。
先天性の心臓疾患があり、周囲から助けられていると自覚し、
自らも他人に対して優しくあろうとしている。
老人に席を譲り、病気の子を救う街頭募金も行う。
啓一のことは「電車で見かけるちょっと変なおじさん」と思っている。

その彼女が、ネットトラブルに巻き込まれてしまう。
炎上したブログから誘導された掲示板に集った変質者たちが、
ついには彼女を誘拐してしまう。
何のとりえもない啓一は、
ウェブに秀でたヤマト、非合法さえ辞さない村岡の助けを得ながら、
自らに課した涼子の守護天使たるべく奮闘する。

村岡の非道ぶりは、犯人たちさえ驚くほどだ。
啓一がカウンセラーとして訪れ、
引きこもりから立ち直るきっかけを与えたヤマトについては、
ちょっと“佳い”男ぶりである。

事件はハッピーエンドで終わるのだけれど、
啓一の引き際の見事さは意外。
これが恋というものなのかとも思うけれど、
守護天使卒業には、まだ、早いのじゃないか。

ヤマトと事件解決に繋がる麻美という涼子の友達とのエピソードが
併載されている。
こちらでの啓一は、さらにみっともなさが強調される。

50歳を超えて初恋という設定は笑うしかないが、
啓一のように一心不乱な恋は十代ではできそうにない。
仮にやったとして、啓一の行為はストーカーと呼ばれるものだし、
たいていの場合なら気味悪がられて、
警察に通報されて、とっつかまって説諭されて…
それでも続けりゃ塀の中です。

啓一の女房の勝子。
こんなターミネーターばりな嫁はんと暮らしていたら、
ホントは強い男という設定にしてあげればと思う。

勘違い男の一念岩をも貫く一冊。

ベン・トー2011-10-11

アサウラ    集英社スーパーダッシュ文庫   620円

ライトノベルである。
著者のアサウラは1984年生まれ。本作が3作目のようだ。
かなり人気の作品のようで、現時点でシリーズは9冊を数える。
小説で挿絵を担当している柴乃櫂人の手によりコミック化され、
テレビアニメ化も始まっているようだ。

だが、内容はといえば、年寄りが読んだところで、
面白いと思えるものは何もない。
ただひたすら弁当を奪い合う小説なのだ。
弁・闘ですな。
戦いの動き自体が荒唐無稽である。
登場人物のネーミングは、いかにもライトノベル的だし、
ワンアイディアの展開はパターン化してしまっているし、
登場人物たちの個性も極端が過ぎる。

もし、45歳以上の人が読むなら、
口直しを用意したうえで臨むべし。

スーパーなどで5時を超えたら弁当・惣菜などが見切り値で売られる。
その時間ごろにスーパーに行けば、
数々のドラマがみられるのは周知のことだろう。
係りの者が出てきたら、ついて回って安売りシールをはったものをすぐとる人、
時間少し前にカートに欲しいものをとっておき、
係りが出てきたら割引シールを張らせに行く人、
そういうのがゴロゴロ見られる。

少しでも安いものを手に入れるため、
あらゆる戦略が駆使されている様は圧巻である。
僕もシールが貼られている現場に幾度も出会わせているが、
割引されたものを手にするのは、時として難しい。
素早いのだ。異様に。
どれにしようかと考えたりしていては、
あっという間にめぼしいものが消えていく。

その現場を戦場とみなし、一定のルールの下で奪い合うというのが、
「ベン・トー」のメインテーマである。

その修羅場ともいえる現場にいるのは、
主として寮住まいの高校生だという設定。

くだらんといえば、限りなくくだらないが、
あの現場に居合わせる者には、なんとなく笑えるだろう。
このテーマで9作品を生み出せるのだから、すごいね。

不思議系上司の攻略法 不思議系上司の攻略法22011-10-11

水沢 あきと   メディアワークス    598円 ②641円

こういう作品が出るあたり、ライトノベルを手に取る年齢層は、
確実に上がってきているということなのだろう。
ライトノベルというと、昔でいうところの冒険小説、
SF、ファンタジーというところが主流であり、
剣と魔法の物語といってよかった。
ところが昨今は様相が変わってきており、
桜庭一樹などの重厚な純文学的な作風もあれば、
日常をコメディタッチに切り取る作品が増えてきた。
主人公格も、従来は10代後半らしきもの、あるいは年齢不詳のものが多かった。
そこも20歳代後半の者が中心に据えられる例も増えてきた。
このままでいけば少年漫画が全世代を読者層にしてしまったように、
ライトノベルもやがてはおっさん・おばはんのものとなる日も近いのだろう。
この水沢作品から、そのように感じさせられた。
それを幼稚化と呼ぶ者もいようが、
別にエンターテイメントに重厚も軽薄もないだろう。
要は読んで楽しいと思わせればいいのだ。
心に染み入る作品は、そういうライトノベル的なものとは別に、
発展していけばよいのだろう。

著者の水沢あきとについては多くが未知のまま。
2006年に作家デビューを果たしているが、
現在もIT系企業に勤務し、二足のわらじであるということしかわからない。
IT企業に勤務している。2006年にデビューしている。
そういう情報から推し量れば、著者は30歳前後と推定される。
本書の主人公格の梶原健二が、ほぼ著者の実像となりそうに思う。
IT関連の人は、結構おたく系文化に精通しているし、
おたく系文化に精通していればメイドへの理解も深そうだ。
そのような観点で見れば、本作は相当なデフォルメがされているとはいえ、
現代のサラリーマンの姿を切り取ったものとなっている。

IT系企業でシステムエンジニアをしている健二は、
クライアントに連れられメイド喫茶に行く。
そこで出会ったのはカヨというきれいなメイドさん。
健二の勤める会社は業績が芳しくないため、
親会社から立て直し要員が派遣されてくる。
その中の一人が、なんとカヨだった。
それも直属の上司になっちゃった。
カヨの秘密暴露はしないという意思表示のため、
健二はメイド喫茶に料理人としてはいることにする。
そこでカヨの本音に触れる健二。
カヨはまともに業績を立て直ししようと考えている。
だけど、冷たい顔で事に当たるため、
コストカッターとしてのカヨに周囲は反発する。
カヨの二つの顔を知る健二は、
そんな両者の間でジタバタしてしまう。
それぞれが別な行動をしながらも、
最後はトラブルを回避していくあたりは、
まさにご都合主義。

そういう乗りの作品です。

現実性があるのかといえば、おそらく絶対にないとは思うけれど、
こういうファンタジーが世界にあってもいいじゃないかと思ってしまいます。
カヨにべたぼれの健二がいじらしいし、
健二への好意がありありなのに、
恋愛に発展しないカヨのあり方もハラハラの原因。

…こんな上司がいたら、仕事なんて手につきそうにはない。

2では、メイド喫茶は背景に押しやられています。

ボックス! (上下2巻)2011-10-12

百田尚樹    太田出版    各550円(別)

ボクシングを題材にした創作というと、
僕に思いつくのはマンガか映画しかない。
映画なら『ロッキー』、マンガなら「明日のジョー」、「がんばれ元気」、
「はじめの一歩」あたりがすぐに思い出せる。
トンでもボクシングなら「リングにかけろ」なんてのもあった。
じゃ、小説では何かあるかと記憶を探ってみても、
ほとんど何も思いつかない。
いくつかのハードボイルドでボクシングジムが出てきた記憶はあるが、
ボクシング競技者を描いた作品の記憶がない。
唯一思いついたのは、ギャリコの「マチルダ」くらいとお寒い状態だ。
この「マチルダ」にしたって、正統派のボクシングを扱ったものじゃない。
カンガルー・ボクシングというショービジネスものだから。
僕が、ボクシングに興味があまりないことも原因だろうが、
ボクシングを題材とした小説は案外に少ないのではないだろうか。

で、この「ボックス!」だけれど、
ボクシング競技の魅力の一端がわかる作品となっている。
初めて読んだボクシング小説となった。
ボクシング小説でありながら、青春小説でもあり、
どちらの観点で読んでも魅力的なものとなっている。
求道的であり、友情にあふれており、闘争心にあふれている。
登場する主要人物のいずれも個性的で輪郭もはっきりしている。

ボクシング小説としては、
練習シーン、試合シーンとも、臨場感と緊張感にあふれている。
アマチュアボクシングの採点法にも詳しく、
ボクシングの奥深さも知れる。

青春小説としては、
元いじめられっこの木樽の、練習に欠けるひたむきさが、
秘めていた天才を開花させていく過程は見ものである。
天真爛漫の天才・鏑矢の挫折と、友のために踏み台となる覚悟など、
読みどころは満載だ。
団体戦へ臨む恵比寿高校の部員たち一人ひとりの心のありようまで精緻に描いている。
鏑矢と木樽という幼馴染二人の厚い友情が染み入る。
そしてボクシングという危険なスポーツを通して結ばれる
敵・味方を超えた友情も読ませる。

敵役として配される絶対的王者・稲村の造形も秀逸。

見事な青春ボクシング小説だ。