なまづま2011-11-10

堀井拓馬    角川ホラー文庫    552円(別)

日本ホラー小説大賞受賞作との帯で買った。
が、よく見ると長編賞の受賞ということで、
大賞というわけではない。
だから「夜市」あたりと比べると完成度はずいぶん低いと感じる。
「佐央理ちゃんの家」に感じた突き抜けた娯楽性もない。
ただ、ただ、気味の悪い、生理的に受け付けないものだった。

妻を失った男の一人称の視点で書かれている。
最初に提示されている男の像は、
最愛の妻―理想の妻として述べられているーをなくし、
空っぽになってしまった、ただ無為に日々を過ごす、
虚無の中にいるものとして提示される。

男は、研究所の所員である。
研究所はヌメリヒトモドキという
得体のしれない生物を地上から排除することを目的としている。

ヌメリヒトモドキは、ナメクジに似た肢体を持つものと推定される。
あるいはウミウシとか、そういったイメージのものである。
粘液を残して這いずり、不快な臭気を放つ。
生きているものには興味を示さず、
命を失ったものであれば、何でも食べてしまう。
決して死なない。
女王から生まれ、周期的に女王のもとに帰り融合し、そして再生する。
人間はヌメリヒトモドキを嫌悪し、
ヌメリたたきを持ち追い払おうとするが、
どんどんと個体は増えていくばかりなのだ。

人間の中には、倒錯した性格のものがいて、
一般的には嫌悪されるヌメリヒトモドキをひそかに飼育し、
自らの歪んだ欲望を満たそうとしている者もいる。
そのようにして人間と接触したものは、
人型ヌメリヒトモドキとなる。

男の研究班では、そうした人型ヌメリヒトモドキを、
人為的に成長させようとしている。
そうしてできた個体は、移そうとした人格をトレースする。
人としての知性や感情まで模倣する。

そこで男は計画する。
妻を再生させようとするのだ。

美しく語られる妻の描写と、著しく不快なヌメリヒトモドキの描写とで、
執拗に制裁に語られる。
その過程は、異様である。

男のヌメリヒトモドキは次第に妻の姿を再現していくのだが…。

最後の暗転の部分で、男が愛していたものの正体が明かされる。
そのときヌメリヒトモドキへの嫌悪より、
人への嫌悪を感じずにはいられなくなる。