オンリー・チャイルド2011-11-11

ジャック・ケッチャム 扶桑社 590円(別)

「オンリー・チャイルド」は原題が「Stranglehold」といい1995年に発表された。
ぼくのケッチャム履歴は上の2冊のほか
2007年に映画化されたという「隣の家の少女」に、
「オフシーズン」
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2007/06/09/1566069
「襲撃者の夜」
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2008/10/26/3849202
そのほか「老人と犬」と「地下室の箱」も読んでいる。
邦訳作品では「ロード・キル」1994「黒い夏」2001「森の惨劇」2009が
いまのところ未読である。
いずれは読みたいと思っている。
が、ケッチャムを読むには心のエネルギーが満タンでないと、
闇の中に引き込まれてしまいそう。
ゆえにあまりお勧めはしない。
比較的落ち着いて読めるのは「老人と犬」だと思うが、
それとていきなりショットガンで犬を殺すシーンを目にしてしまうから、
健康的なものとはとても言えない。
ぶっ壊れた人を見せつけられてしまうと覚悟が必要。
こんなにぶっ壊れた人間を描く作家は他に例を知らない。
近いのなら桜庭一樹だとか、真梨幸子だとか、沼田まほかるだって、
それこそいっぱいいるが、
ケッチャムほど不気味で不安に陥れられる作家はいない。
人前でケッチャムの小説が好きです。興奮しますなどのたまえば、
その時点で立派に異常者リスト入り間違いなしでしょう。
が、あえて言います。僕はケッチャムの作品が好きです。
誰にでも起こりうる恐怖として、これほど怖い小説を書く人はいないだろう。

「オンリー・チャイルド」は、男女二人の物語といえる。
その粗暴さを隠したまま成長し、

アーサー。子供の時から頭脳明晰であった。
だが彼は母親からの虐待を受けながら育てられいた。
ために彼は性格的に歪んだ悪がきへと成長していた。
うちの粗暴さや残虐性を世間から巧妙に隠しながら、
端正な、そして人好きのする男として、
事業でも成功をおさめ名士としてふるまっている。

リディアは聡明で美しい看護士。
彼女は父親から性的虐待を受けた過去がある。
卒業して結婚をするが価値観の違いから離婚を経験している。

そんな二人は大学でニアミスをしていた。

それぞれの道で暮らしていた二人が再び出会うのは、
リディアの妹バーバラの結婚披露パーティー。
会場がアーサーの経営するクラブだったのだ。
アーサーがリディアに目を留めたこと、
リディアの友人の唆しもあり、
2度目の邂逅から、2年後には息子ロバートを抱くこととなっていた。

優しく金持ちの夫との幸せな、表面的にはそう見えていた、結婚生活。
それがロバートの成長とともに変わっていく。
次第にアーサーの秘めている昏い熱がリディアに向けられる。
連続殺人を起こしているアーサーの狂気は、
アナルセックスの強要、暴言、銃器への偏愛、
さまざまな姿でリディアに向けられていく。
それでも子煩悩な父の姿を見せるアーサーに、
リディアは耐えていた。愛していてさえいる。
だが、ついに暴力がリディアに襲いかかった時、
その狂気はロバートにさえ及びかねない。
気づいたリディアは離婚を決意する。

離婚後、アーサーのロバートへの面会権を拒むことはできない。
ロバートも父と会うのを楽しみにしていると考えていた。
が、離婚前からロバートはしばしば奇妙な行動をとるようになっていた。
その奇妙な行動は、徐々に強まっていく。
そう、アーサーは息子のカマを掘っていたのだ。
すべてが判明した時、リディアは戦いを決意する。
正義を果たすための善意が集まっても、
法は、リディアたちを守るものではなかった。
法が守ってくれないなら、自ら決着をつける。
ロバートを守るためリディアがとる行動が、
最悪の結果へとなだれ込んでいくこととなる。

アーサーの狂気も怖いが、法のあり方も怖い。
アーサーの母・ルースがロバートに向ける目線も怖い。
悪夢の繰り返しを予感させることが何より怖い。

異様な物語の中に複線的にさまざまな怖さが錯綜している。
リディアの犠牲が、本人が望んでいるところに結びつかないのが、
何よりも怖い。
ダンス家の男たちなどかわいいとさえ思える。
ルースの異常さが際立つ。社会のゆがみが怖すぎる。