傀儡に非ず2019-04-18

上田秀人  徳間時代小説文庫  710円

上田秀人は1959年生まれだそうだ。
時代小説ばかり100タイトル以上書き上げている。
本業は歯医者さんというのに、この著作集、活力ある人だ。

「天主信長」裏・表くらいしか読んだ記憶はない。
あと「孤闘 立花宗茂」も読んだかもという程度でしかない。
その程度しか知らないので、多くは語れない。

「天主信長」で、本能寺の謎を復活をもくろむ信長の自作自演が、
忠実な光秀により実行に移されかけてをいたが、
信長に恨みを持つ黒田官兵衛が秀吉を唆し暗殺させたという親切で解いたように、
本作では荒木宗重の謀反が、やはり信長の自作自演だったとする過程で書かれている。

本能寺の衝撃が大きい分、ややもすると見過ごされがちな事件に、
摂津・荒木の反逆があげられる。
織田軍団の中で有力な武将の一人にのし上がっていた村重だが、
本願寺に兵糧を横流しした家臣がいたため、
信長の叱責を恐れて離反したとか言われている。
しかし、離反後は本願寺と連携をとる動きが見えないばかりか、
別所・波多野と連携を取り積極的な軍事行動を起こすでもなく、
ただ籠城し自滅していくのである。
籠城の末期には有岡(伊丹)から一人抜け出ている。
その後は毛利の元まで落ち延び、信長の死後茶人として畿内に戻っている。

少なくとも中央にいて、松永弾正などの破滅を知る男が、
何もしないまま、一人落ち、生き永らえたとするには、
他の名を惜しむ者たちの滅びに比べ、あまりに無様に過ぎる。
そうしたなぞに対する答えを、
「天主信長」で行ったと同じく、仮説を立て書き進められたのが本作である。
ついでに言えば松永弾正も同じ境遇にあったと村重に語らせる。

それなりに説得力のある仮説に基づく物語であるが、
能登に一族の女たちが惨殺されるなどした史実から見たら、
村重の行動に同意する気にもなれず、
その結末に暗澹とした思いを与えられた。

「天主信長」といい、本作といい、
筋立ては面白いのだが、最後の部分で不快を残してしまうのが惜しい。

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