嶽神伝 逆渡り2019-05-18

長谷川卓  講談社文庫  640円(別)

「逆渡り」は他の嶽神シリーズとは異なる輝きを持つ。
忍者との死闘などない。
山に暮らす民の生き方が淡々と描かれたという感じ。
山の民は、一つ所に定住せず、地から地へと移り、
木を切り山を焼き雑穀を育てる。猟をし、山の実りを採集し、
時には里ものの戦場に出稼ぎし暮らしている。
そして、土地を殺さぬように集団で移住(渡り)し続ける。
足手まといとなる老齢になると集団から外れ一人で生きていく。
ひどく乾いた死との付き合い方をする者たちである。

四三衆の月草もそういう渡り衆の一員であった。
上杉憲正と武田との戦場に仲間とともに出向いているが、
絶対優位の関東管領連合軍は大敗北に見舞われる。
その戦闘で年若い衆が頭蓋を砕かれ絶命するほか、
他の山の者たちが死んでいく様を見てしまう。
そんな暮らしのうちに、妻に十分にしていないとの思い。
その妻の死んだら山桜のもとにとの思いを受け、
自ら集団を離れる「逆渡り」を選択する。

四三衆の現在地から山桜の地まで、
はるかなる地を目指しひとり旅立つ。

途次には、
病に苦しむ子を救うよう依頼され、薬草を処方するもあえなくし、
逆恨みから命を狙われる羽目になる。
山中で山犬に襲われ死に瀕する。
(自然の中での人のもろさ)
姥捨てにあった者たちに救われ、
恩に報いるべく暮らしを共にするも、
さらなる姥捨てが厄をもたらし、毒を盛られ殺されかける。
(この辺りは老いても男と女の浅ましさ、女の恐ろしさ)
そういう事件が次々起こる。
知恵と度胸、運にも助けられ、それら事態を切り抜け、
とうとう約束の山桜の地にたどり着く。
読者がそこに見せられるのは、突き抜けた美しさ。
生きている実感だ。

嶽神シリーズをほぼ読み終えた現在からみれば、
逆渡りを選ぶ心境のあたりは、
なるほどと思う構成になっている。
この作品の持つ乾いた感じがあって、
まだ「鬼哭」を残しているので確実には言えないが
嶽神シリーズ全体の印象に深みを与える作品になっていると感じる。

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