恋に至る病2020-06-06

斜線堂有紀という作家のメディア・ワークス文庫の一冊だ。
メディア・ワークス文庫をラノベというと抵抗がありそうだが、
ラノベに僕は入れている。
絵が大きなウェイトを占めない点では
ラノベとは一線を弾けるのだろうが、
その文体はラノベと大差ないじゃんと思っている。
それが悪いわけではない。サクサク読めていいと思いはする。
だけれど、やっぱりどこか合わないのだ。

もちろんすべてをひとまとめに論じるのは無茶苦茶だ。
三秋縋、佐野徹、松村涼哉といった面々は、
少し書き方が変われば、たちまち純文学を凌駕しよう。
斜線堂有紀もそれら一連の作家と同じだと思う。
読みごたえはあるのだ。それでいてさらっと読める。
悪いはずはない。
でもなんか惜しいと思っている。

この作品を読む動機は新聞の紹介で固まった。
2か月ほど前に書店で見たときから買うかどうか迷っていた。
新聞記事が購入を後押しした。

語り手である宮嶺。美しくて誰からも好かれる寄川景。
物語は二人が主軸になる。
宮嶺は転勤族の親の元に生まれ、
人間関係を作るのがとても苦手な男子である。
寄川景は、誰からも好かれいつも人の中心にいる美しい少女だ。
寄川のいる小学校に宮嶺が転校してきて物語が始まる。
自己紹介の時、助け舟を出されてから宮嶺は寄川に惹かれていく。
寄川はクラスの中心であり、クラスを動かす中心であった。
そしてあることがきっかけで寄川と宮嶺の距離が一挙に縮まる。

宮嶺が見る寄川は、すべてに優れた偶像であり、
非の打ちどころのない少女であり
彼女のすべてを肯定するようになる。

ある日から宮嶺に対するいじめが始まる。
始まりは消しゴムがなくなるという些細なものであった。
やがてエスカレートしていき宮嶺は孤立する。
その宮嶺に寄り添い助けると約束するのが寄川であり、
彼女が介在するでもなくあっけなく事態は収まる。
宮峰の孤立は解消されるのである。
その過程で宮嶺の思慕は極大値のいたる。
小さな疑惑を飲み込みながら。

そのまま中学校に進み、ますます華やかさを増す寄川、
多少友人ができるなどし、それなりの日々を送る宮嶺。
二人が接近するのは修学旅行中の自由行動時間。
久しぶりの二人だけの時間に宮峰は疑惑を尋ねる。
疑惑をあっさりと肯定する寄川。
知り得た事実を共有しながら二人だけの秘密になる。

同じ高校へと進み、同じ生徒会に属し、
行動を共にするようになり、やがて恋人関係になる。

ここから二人にさらなる秘密が共有されることとなる。
自殺サイトの運営に関するものであった。

それらすべてを肯定し続ける宮嶺、
しかし想像を超える寄川の実情、また一つ、そして一つ、
惑いが大きくなる。

寄川の行動に終止符をつけるため宮嶺が自発的行動をとった時、
突然の終結を迎える。
すべてのからくりを知った時宮峰は寄川を永遠のものにする。
美しく優しい寄川を守り、自分の知る真実の寄川を見捨てる。
寄川の行為をすべて引き受けて。

最後の3行が、消しゴムの存在が、
寄川の存在の美しさの本質を暴く。

「恋に至る病」とはよくぞ名付けたものだ。



それにしても寄川の造形は強烈だ。
宮嶺のありようは理解できるものの、
ここまで徹底するのは、現実には不可能だろう。
人を言葉などで巧みに誘導できる人がいるのは知っている。
自らの手を汚さず、他者を誘導し目標とする者をを破滅に追いやる。
それを罪悪感なしにしてのけたうえ、
さらにそのものを救い優越性を得る人がいる。
そういう実例も見た。
だが寄川程な人間には出会うことなく来た。
それは幸せなことだったのだろう。

作中の登場人物の誰一人として共感できないし、
いかに美少女にして優しいといっても
魅力が広がり、惹かれるということもない。
宮嶺もまた怪物である。
いや、寄川を超える異常者だと思える。

面白いのは間違いないが、人に薦める気にはならない。