少年と犬 馳星周2020-09-15

2020年上半期「直木賞」受賞作品になった。
長いキャリアを持つ著者なので、今更な気がする。
小説として駄作などという気はさらさらないが、
すでに手あかのついたテーマで、斬新さなどないと思うのだが
なぜか評者の弁は、動物小説の新機軸のような取り扱いが目立つ。
一頭の犬がさすらい目的地に向かうという話なのだが、
それを犬の目線ではなく移動時にかかわる人の目線で描いている。
6編の短編からなる連作長編になる。そのエピソードは馳作品らしい。
どうしようもない底辺の人間であったり、行き場を失った者たち、
そういう視点で犬を描き、犬の気高さがにじむありようは好みだが、
あまりにも現実離れしたファンタジーにすぎない。
ファンタジーゆえにハッピーエンドで終わらせのも馳さんらしい。

犬文学のショールーム的作品だと思う。
作品としては「走ろうぜ、マージ」などのほうがはるかに優れていると思う。
(エッセイだという向きもあろうが、あくまで小説だと思っている)

「この犬の歩むところ」だとか、西村寿行、
前世紀の名作犬物語「ラッシー」や「ロンドン」
そうした昔の作品を超えるものではないと思うが、楽しめる。
かなり売れているようだが、これら先行作を読んだ人ならば
スルーしていてよかろうと。…。