童の神 今村翔吾2020-09-24

ハルキ文庫。単行本は2018年刊

昔話だとか伝説・民間伝承には、失われた事実が隠されている。
そうした研究は実際に行われていて、いくつかの消された歴史が復元されてきた。
正史は、勝者の側が編んだものであり、敗者には別な見え方があったであろうことは
わざわざ述べるまでもないことだろう。

さて、この「童の神」は、御伽草紙などで知られる酒呑童子だとか茨木童子といった面々が
源頼光と四天皇と激突する活劇になっている。
童はしもべという意味があり朝廷の奴婢的な存在で
中央から、武力的に圧せられており、重税を課され苦しさに耐えている。
そういう現状を変えようとする者が朝廷にいて、
そえを利用し政界でのし上がろうとする者がいる。
後に「安和の変」と名付けられる騒動がプロローグとなる。
平将門の落胤が登場したりとプロローグだけですでに一作品できそうな豪華さなのだ。

いよいよ本作の主人公が登場する。
越後の連家に「安和の変」後の日食の年に生まれた桜暁丸。
後に酒呑童子と呼ばれることとなる。
師に恵まれ文武に秀でた存在となるも
重税を課された越後は、源頼光に襲われ一族滅亡に合う。
そして京周辺に出てくることとなる。

やがて各地の童たちと親交をかさね、その中心になっていく。

人として当たり前の生活が得られるようにと奔走し
やがて朝廷との闘争になっていく。

結末は打ち滅ばされるには違いないが、
源頼光をはじめとした中央政界の権謀術数に対して
真っ正直な戦いを挑み続け苦闘するさまを読ませる。
「鬼に横道なきものを」。最後に置かれたセリフが清々しい。

高橋克彦の東北4部作に匹敵する傑作。

合理的にあり得ない 柚月裕子2020-09-24

講談社文庫。副題は「上水流涼子の解明」。単行本は2017年刊。

「孤狼の血」「盤上の向日葵」で知られる著者の

それぞれ確率的、合理的、戦術的、心情的、心理的とされた
5編の短編からなる一冊で、そのタイトルに沿った解決が行われる。
この趣向と、美しい元弁護士・涼子を探偵に、
知略に優れた木山が助手役に据えられた二人のキャラが物語を彩る。
5つの作品を読み進めるうち、涼子と貴山の人物像がはっきりしていく。
涼子が弁護士資格をはく奪されたわけ、
貴山が涼子の助手を務めるわけが浮かぶ。

預言者を信じる経営者、悠々自適の引退生活で金遣いの荒くなる妻、
賭け将棋に興じるやくざ、孫を連れ去られた企業グループ会長、野球賭博でのトラブル、
解決に至る道筋はいろいろあれど痛快である。

事件解決に導くのがミステリの主流だが、
柚月さんのこの作品は事件に関わった人物の心情を解決することに向けられている。
こういう作品の趣向はめったにお目にかかれない。