隣のずこずこ2021-02-28

柿村将彦

日本ファンタジーノベル大賞2017受賞作品。
ファンタジーっぽくて、SFっぽくて、ホラーかなと思わせる。
さて不思議な魅力に満ちているものよ。

感覚的には常川光太郎ばりに惹かれます。
語り部の住谷はじめの乾いた感じがいい。
抗いも淡々としていて、受け入れながらもあきらめるわけではない。
この恐ろしい物語の語り部の設定が絶妙すぎる。

通い帳に一生とクリ、信楽焼の狸が制服姿の少女の後をついて歩く
そんな表紙とタイトルが気になった。

民話「六分殺し」と似通っていると森見登美彦氏が解説に書いている。
なるほど民話にありそうな語りではある。
いつの時代の日本かははっきりしないが、
3-40年前ならあったかもしれない地方都市が舞台になる。

一人の若い女の旅人が訪れ、村に置いてくれたら金をくれるという。
そのうえ舞を舞い、野良を手伝う。村人は彼女を引き留める。
だが、女は去ってしまう。
そしてのち一匹の狸が村にやってきて
住民を残らず飲み込み、火を吹いて村を焼け野原にした。
そのような「権三郎たぬき」の昔話が残るところに、
一人の女性が狸を引き連れやってきた。女性が言うには
「一月後には村を壊します。あなたたちは丸のみです」

女性=あかりから話を聞いた住民たちは、
疑うこともなく終末を受け入れ、残る1か月を思い思いに過ごす。
ある者はおいしいものを喰い尽くそうとし、
ある者は想い人に襲い掛かる。
またある者は生きる意味を失い予定日を待たずに自ら呑まれる。

が、ごく少数のものが運命を受け入れることなく抵抗を始める。
語り部の友人恵美は放火を行い、住民に戦いを促そうとし、
恵美の決意を知った語り部のはじめはあかりの殺害を実行する。

その結果は。

木乃伊取りが木乃伊になるあたりが、底知れず恐ろしいのだ。
それでひょうげた語り口に終始する。
どのようにも読めるところが、さらに恐ろしい。

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