絶海にあらず(全2巻)2008-09-14

北方謙三    中公文庫    各648円

北方謙三の歴史小説は、良くも悪くも同じ味がする。
人として人が人と向き合い闘う限りにおいては善も悪もない。
矜持といってよいのだろうが、見つめ追い続けるものを、
立ち位置が変わろうともけして悪人としては描かないのである。
人がぶつかり合わない、死からおよそ離れたところで、
小ざかしく策略を練り、己が栄華を求めるものを除き、
爽やかさを感じさせるよう描かれる。

「三国志」においては董卓、
水滸伝においては童貫のような、
たいていの物語では下劣な人物として扱われるものをね
きらきらと輝くものに書き換えていく。

「絶海にあらず」は、藤原北家が権力を一手に集め、
全盛期を迎えようとしている時期が舞台となる。
関東の平将門、瀬戸内の藤原住友、、
平安期に起こった大反乱とされるものである。
ほぼ同時期の反乱でありながら、
平将門は多くの人に語り継がれているが、
純友はあまり語られることがない。
将門が後に起きる武家政治を先取りしようとしながら、
関東の諸氏をきり従え、武を持って豊かさを得ようとあがき、
結局新しい政体を考え出せず、
新帝と自称し武士の失望を受け自滅していく。
その中で武士としての抜きん出た力量が、
後世に英雄伝説として語り継がれる結果となったのだろう。
対して、純友は領地というものにとらわれないわかりにくさがある。
海賊衆を率いて目指したものが見えにくいのだ。

北方謙三は、当時の資料を解体して新たに繋ぎ合わせ、
足りない部分を、海の交通は権力者によって統治されるものではない、
と、考えた純友を活躍させる。

「黒龍の棺」に似て、敵・味方から見送られ、
新天地に向かう純友が良い。

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