悪いものが、来ませんように2019-03-04

芦沢央  角川文庫  600円

タイトルからホラー的なものが強いのかと思い読んだ。
結果はホラーのかけらもなかったけれど。

この人の作品も読んだことはない。(と、思う。)
もし読んでいたとしたら、
たぶん湊かなえや茉莉幸子あたりの作品として
僕の中では処理されているのだろう。
今作を読んだ限りでもそういう感じ。
ある意味いやミスの先人たちの劣化版に思えてしまう。

本作品を読んでいて鼻についた点が
登場人物たちの関係を
ことさら誤解させるようにしているところ。
親と子が友人かと錯覚させるところが、たまらなく鬱陶しい。
殺人に至る経過と、罪をかぶる点でも腑に落ちない。
毒薬による死と思い込む容疑者が、
どの時点でアナフィラキーショックによる死と知ったのかわからない。
そうした点が読み進めるうえでの障碍になった。

そうした点を抜きにした感想は、よくできているといえる。
親と子の共依存と、子のない主婦の追い詰められた感情など
本当によく描かれている。
母の生い立ちからくる歪み、娘たちの屈折、婿の身勝手さなど、
その心の動きは不気味だが説得力がある。

物語の進展に伴い様々に語られる証言がさしはさまれるところも、
使い古した手法ではあっても、効果的に挿入されている。
いくつかのまどろっこしさがあるものの、文句なしの力作であった。

でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相2019-03-07

福田ますみ   新潮文庫   590円

福岡県で起きたとされていた
教員による生徒いじめj事件のドキュメント。
当時ワイドショーなどでも取り上げら荒れ、
いじめを行ったとされた教員はバッシングされた。
のちに教員の不法行為のほとんどは否定され、
保護者の異常性が暴かれたことにより、
モンスター・ペアレントがいると世間に認知させた。

事件がテレビをにぎわせていたころ、
そんな教員が存在するはずがないと思っていたが、
その後に似たような事例が告発され、いくつかは事実としてあった。
福岡の「殺人教師」は冤罪であったものの、
教員由来のいじめが深刻な事態を生んでいることも事実のようだ。
だからいまだにこの事件も事実であったとする向きもいる。
そうした誤解を持つ人々は本書を読むべきだろう。

モンスター・ペアレント、略してモンペは、実は以前からあった。
それは有力者であったり、同業者であったり、
反社会的勢力に近しいものだったり、
ある種の圧力団体に属していたり、
子供への特別扱いを承諾させるか、
謝罪を得るための力の行使であった。
だから誠実に向き合い続ければ、手打ち可能な存在であった。
この書籍でみられるような目的が迷走する保護者というのは、
これまで聞き及ぶことのなかった新しい形と思う。
結局は裁判で慰謝料を求めていくのだから、
金目かと思わせられるが、それは彼ら自身の考えというより、
結果として周りにそそのかされていったのかと思わせる。
モンペが初めからモンペではない。周囲が形作る。

この事件の保護者も、彼ら自身が自己の責任を回避するため、
小さなうそをつく。
その嘘に自らがからめとられていく。
最初の苦情に教員が引いて言い分を認めたこと、
相手の話を猛進ししなくてもいい追従をする。
それがい所yな攻撃の端緒につながる。
相手が引けばさらに主張を自己増殖させ、
徐々に過激な主張をしていく、
そういう状況になっただけといえるように思える。
自らのウソを信じ込み周りを巻き込んでいく。
二親そろってそういうありかたをしているから、
だから見る見る間に事実は極端になっていく。
そこに報道がからむ。取材力を失った記者たちが、
さらにうそを増殖させていく。
教員が引いたこと、学校が引いたこと、
教育委員会が認めたこと、
弁護士がついたこと、それらがますます彼らを暴走させた。
彼らの頭の中で、彼らの主張は事実としてある。
都合のいいように記憶は改変されるものにすぎない。

それらの過程が丁寧に述べられていることが興味深い。

2000年代以降にはだれもが簡単に情報発信が可能となることで、
そういう事実を必ずしも反映していない情報が氾濫している。
そもそもの情報発信者が、自分の情報がもとに変容した情報を見て、
さらに誤情報を拡大させていくこともある。
本来情報の正確性を担保するべきマスコミが、
そういう情報をうのみにすることも数多い。
新聞などで紹介される活動などでも、その活動現場にいるものとして、
その紹介なら提灯でしかないじゃないかと思ったことも多々ある。
事実の認定は、本当に三塚しい。

この事件を報道したマスコミからは、
ほとんど反省など示されていない。
著者が事実を突きつけても、自分たちの正当性を主張し続ける。
謝罪することが悪であるかのように。

それくらいの覚悟しかない、正義を標榜する記者たちが冤罪を生む。
今日もまた報道の姿勢による「いじめ」が起きていないか。
そのあたりを考えると、恐ろしいと思う。

「はいら」満12歳2019-03-08

昨年の5月ごろにリンパ腫・がんの診断が出て、
12歳を迎えられるかと心配していた「はいら」だが、
今日、無事に12歳を迎えることができた。

少しずつ病変は大きくなってきているが、
呼吸がしんどいようには見えない。
長い距離を歩くとやや呼吸が荒くなるものの、
年齢相応だと思える程度である。
リンパ腫のほうもそんなに進行していない。
ただ全身の脂肪種は増えているし大きくなってきている。
ないところを探すのがむつかしいくらいになっている。
胸にも出てしまったので、
リンパ腫の病変を確認しにくくなっている。

4歳ごろには動かない犬になっていて、
7歳ごろからは、ドッグランに行ったってほとんど走らない
ただ地面にすりすりするばかり。
4歳年長の「そらん」が爆裂中もついていきはするけど、
はるかに後ろをとテトテと追って行く。
その姿を例えればうんこをするぬいぐるみ。
そこからはあまり変わっていない。
一時は絶望的な気分になったが、
この調子が長く続くように希望が持てる。

散歩は近頃歩き始めるまで時間がかかる。
いったん歩き始めると、長い距離を気ままに歩くこともある。
でも少しでも調子が悪いと、
分かれ道に差し掛かるたび帰る方向に行きたがる。
「まこら」がまだ行きたそうにしているから
励ましても頑固に変えることが増えてきた。
満足しない「まこら」だけ追加して連れて行こうとすると、
自分も一緒に行くと訴える。
「まこら」も「はいら」を気にして動かない。
で、リードをつけて歩き出すと、また帰りたがる。

日に一度くらいは「まこら」相手に
走って追いかけじゃれあうこともある。、
「まこら」からちょっかいをかけて始まる遊びだが、
すぐに疲れるのは昔からで、
疲れたらだいたいはアリに対する猪木の戦法で対応する。
「そらん」相手には「はいら」からちょっかいをかけていたが、
ごくまれに「はいら」から仕掛けていることもあるが、
だいたいは「まこら」から仕掛けている。

それら以外では、ひたすら寝る。
僕の枕に馬乗りになって、ひたすら寝る。
どうやら枕の形状が楽な姿勢に適しているらしい。
おかげで枕は「はいら」の体液でべとべと。
3つ枕を用意しているから、他のを使うのだけれど、
本当は一番合っている枕だけに困ってしまう。

ま、そんなでも長生きせいよ。13歳まで頑張ってくれ。
まだまだこれから、だ。
目標は少しづつしか伸ばせないが、
病気を抱えていても長生きできることだってある。
この日々が続きますように。

この後犬達を置いてお出かけだけど、
帰りには、誕生日プレゼント用意してくる。
誕生日にプレゼントなんて初めてかもな。
「まこら」にもおこぼれがあるだろう。

RDG レッドデータガール 氷の靴 ガラスの靴2019-03-10

萩原規子   KADOKAWA   600円

現代ファンタジーと位置付けられるのだろう。
陰陽師や修験道、果ては忍者だとか心霊だとか魔術とか。
もうおなかいっぱいです。
その割に活劇は少なく、友情を結ぶところにや恋に力点が置かれていたりと、
どちらかというと女子受けしそうな作品である。
(女性ではなく女子です。腐女子向きではないと思う。)
シリーズとしては6巻で完了とされていたが、
本作品ではわき役陣視点からエピソードの別な面が物語られている。
また、中編は【その後】が物語られている。

ファンタジー色は強いが、本筋は恋愛小説だし、
なんか巫女とか陰陽師とかは、結局何だったんだろうね。
また、その恋のありようが【絶滅危惧種】であり、
そここそがファンタジーなんだろうね。
なんか読まなければよかったかなと思っている。
面白くないというでなく、感覚が合わないのだ。

君は月夜に光り輝く +Fragments2019-03-12

佐野徹夜  メディアワークス文庫   610円

まるで「世界の中心で愛を叫ぶ」のように、
病で死にゆく恋人たちの話。
似たようなといったって違いはある。
「せか中」が大人になったものの視点が書かれたのに対し、
「君月」はリアルタイムで終わる。なくしたままである。
もう一つの違いはサイドストーリーが存在するらしいことだった。
作者が乾ききっていないモカ、ウェットになりがちな点も違う。
ちょっとした笑いを盛り込んでいるところも違う。
日本人が好きな純愛小説の要素を網羅しているから、
売れるだろうなとは思っていたが、50万部だそうだ。
映画化だそうだ。
「せか中」にせよ「君膵」にしろ、みんな本当に好きだねぇ。

この作品は本編の続編にあたるところや。隠された物語を収めている。
ヒロイン視点で書かれる商品が2点。
主人公視点の小品が2点。
二人を会わせた級友視点がの商品と中編が1点づつ
これらの作品によって作品世界に広がりができている。

秀逸だと思うのが二人の友人香山彰の視点作品。
このひねくれ男なくば「君月」の世界は成り立たない。
純朴な二人より、この男のほうが興味深い造形となっている。

ライトノベルのようなものだけれど、少し大人向け?

ゲーマーズ DLC 22019-03-18

葵せきな   富士見ファンタジア文庫  600円

還暦を過ぎた男の読むものじゃなかろうと思う。

ライトノベルの中でも、主ターゲットと考えられる高校生の、
それもリアル恋愛からは遠い男子が、
妄想してやまない世界ではないだろうか。

誰もが認める容姿端麗頭脳優秀のアイドル的女子、
メガネをとったら見違える美貌なパッとしない女子、
今風のきゃぴきゃぴした女子だが、案外古風な女子、
ちょっと大人の美貌の同級生の姉、
そういった女子たちがことごとく
教室の片隅でひっそり生きている男子に恋する。

余計なものをそぎ落としてみたら、
目立たない男の子がもてまくる。
ただそれだけのこと。

勘違いやすれ違いで行ったり来たりの恋模様は
もし過去がこんなだったら楽しいだろうなと思わせてくれるが、
現実では起こりえないと知っている。

こんなものを書いている、書かせている、
書き続けている、書かせ続けている、そして読んでいる
それらの者たちの、実際の恋愛が遠くにあるから、
成り立つんだろうなあ。

コメディなので、それなりに面白いのだが、
老人と子供以外、読んじゃダメ。
(いうまでもなく読まないだろう)

本編のほうが次で最終巻ということで、番外編のDLCも今回で終了。
このシリーズが終わると、
ラノベで読み続けているのはリゼロと問題児シリーズくらいになる。
もう、おなかいっぱいだ。この手の作品群は手を出さないだろう。

クラリネット症候群2019-03-19

乾くるみ   徳間文庫   590円

タイトル作と「マリオネット症候群」が収められている。

「マリオネット症候群」は、
誰かを殺せば自らの肉体を殺した相手に乗っ取られるという設定で進む。
最初の入れ替えが女子高生とあこがれの先輩の間で行われる。
ヴァレンタイン・チョコに毒薬が混入し
先輩が死んでしまったことで入れ替わる。
この男冷静なのか、自分に起きた現象に戸惑いながらも対処する。
女子高生は意識はあれど寸毫たりと肉体に働きかけられない。
さて、どうなるん?

映画「転校生」の方向に行くかと思いきや、
意外なことにどんどん意識が集まってくる。

まず母―これが実は父だったと驚きの展開。
実は母に嫉妬から殺害されていて入れ替わりが起きていたという。
殺されて気が付けば入れ替わりが起きていた。
自分の遺体を床下に埋め、母として暮らしていたという。
だから娘の異変に気付いた。
何とか二人でごまかして暮らしていこうと決意する。

ところが先輩には秘密の交際があり、その相手との間でトラブり、
今度は交際相手を死なせてしまい、入れ替わる。
そして女子高生と先輩は一つの肉体の中で出会うことになる。
女子高生のほうにも、幼少期に兄を事故死させていたことがあり、
実は思っていた事故で死んだはずの男の子だったと判明。
女子高生と妹、先輩の奇妙な同居生活に至る。
そして最後は、疲れ切った母(実は父)が娘を殺害。
ついに以下全員が勢ぞろい。
ある条件の下では一家だんらんの日々を迎えるのでした。ちゃんちゃん、と。

SFのようでもある、なかなかの怪作に仕上がってます。

ふと思うに過去記憶を引き継ぐ物語への皮肉かと。

「クラリネット症候群」は、
例の{パパからもらったクラリネット。壊れて出ない音がある}の歌詞が
作品の肝になる。
この処理の仕方が筒井の「残像に口紅を」を思い起こさせる。

ドレミが聞こえなくなった主人公が、
童顔に巨乳で人気の先輩と絡む会話シーンなど、笑える。
それがハードボイルドになるのだから恐れ入った。

どっちかといえば、やはりこちらが好みに合う。

でも時代がなあ。
ほしのあきは過去の人になってしまったよ。
そう、本書は2008年出版の古いものなのだ。

敗者の告白2019-03-19

深木章子    角川文庫   760円

著者は弁護士として働いていた経歴を持つ。
で、この作品に流れているのは、経験で得た法の限界だろう。
所詮裁判は、真実らしきものを種にしたゲームなのであり、
被害者や容疑者を含め、検察・弁護士間で戦う勝負でしかない。
真実は天が知るのみ、なんて事態は常にある。
犯人がいたとして、犯行を認めていてさえ、
時として真実は暴かれ切らない。
そういうものであると知らしめる。本作品はそういうとらえ方ができる。

別荘で子供と妻が転落死した。
夫は容疑者として拘束される。
関係者の証言が少しづつ別な顔を見せる。
弁護士は、やがて決定的な証言を得、容疑を晴らす。
しかし、切り捨てた証言から事件のある可能性を発見する。
結審後に弁護士がその可能性を書簡で指摘し、
夫が書簡を返し、隠されていた事実を告白する。
最後に新聞記事を配し物語を結ぶ。

告発文、証言、メール、書簡。
それらだけで進められる物語は、
事件の見え方がくるくると変わる効果を与えることにつながり、
緊張感を感じさせる効果がもたらしている。
非常に興味深く読める高作品だと思う。

ただ、最後の書簡のやり取りは
ミステリとして完結させるため置かれたのだろうが、
弁護士ではなく別な誰かの告発にするのが自然かなと感じる。
実際にこんなやり取りをしてしまったら、
弁護士として続けていけるものなのかと思ってしまう。
何人かの知っている弁護士から、
ゲームと割り切っているにせよ
真っ黒を真っ白にするほどの決意を持ち続けるのは
むつかしいことだと考える節がみられたし、
疑問を残した勝訴であっても、
疑問を勝訴後に依頼人に確認することはしなさそうとの感触を持った。
確認してしまい疑惑が暴かれてしまえば、良心が持つのか、
普通人でしかない僕には理解できそうにない。
公開をする結果につながることととらえず、
とりあえず依頼人の利益を勝ち取ったからいい。
被害者たちは、残念だったね。と切り捨ててしまえるものか。
判断できないのだ。
そこだけがちょっと引っかかってしまったのだ。

頼りがいはある気もするが、
もし、弁護士に、そういう人たちがいるなら、
なんだかいやだなあ。