六百六十円の事情2010-08-05

入間人間    メディアワークス   610円(税別)

入間人間は1986年生まれで、電撃文庫を中心に作品発表を行っているライトノベル作家である。影響を受けた作家に西尾維新を挙げている。そのためか設定が特殊に物語を書いているようだ。西尾維新が心底嫌いになってしまっているので、読むことはあるまいと思っていたのに、同僚が読めといって、タイトルの作品を渡してくれたので読む羽目になった。西尾維新みたいに変なのとちゃうやろね、と念を押すと、他の作品がどういうものかは別として、これやったら読めると思いますよ。とのことだった。確かに読み終えての観想では悪くなかった。ライトノベルということから考えると、むしろ良くできた部類になるのじゃないか。

少々デフォルメが過ぎる人物ばかりが、日常の中で迷路にはまり込んでいるところで、ひょんなことから繋がってしまうあたり、そういう展開でええんかとうなってしまうけれど、それぞれの青春模様が生きているところが良い。作品の根底が、割合明るい世界観で描かれているため、、毛嫌いするようなものとはなっていない。結構好みのように感じている。もう少し、何かがあればお勧めできる。

タイトルの660円は、カツ丼一杯の値段を意味している。ある日掲示板に書き込まれた『カツ丼作れますか?』その言葉に反応した幾人かの男女。働きもせず歌を歌い続ける女性=食堂に勤める男が恋人。その食堂には男っぽいむすめがいる。そしてなぜか同級生がそのこと恋する。その同級生は本屋での万引き常習犯。その万引きする店の店主。妹の友人は家出をもくろむ小学生。知らないうちに、これらの人々が掲示板に反応しているのだ。そして、小学生と同じHNで書き込まれた掲示板を通じて、みんなが繋がりだして…

ここに書かれた日常に、思い当たるふしのある人って意外と多そう。でも、決着が悪いものになるんじゃないかと怖れて、中途半端に逃げていたりして。こんな爽やかな結論が待っているのなら、悩見ながらも前に進めるのも悪くなかったかもと思うかも。今から悩む人へのちょっとした薬になるかもね。

奈落のエレベーター2010-08-05

木下半太   幻冬舎   571円(税別)
「悪夢のエレベーター」の続編となる。
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2008/04/21/3228643 
映画「悪夢のエレベーター」が2009年に公開されていて、
ご覧になった人も多いのだろう。
原作そのものが、即商業演劇化可能だと思った。
だから映画にしやすいのだろう。
セットもこじんまりとできるから、低予算で十分。
ほとんど映画は見ないから、どんな仕上がりだったのかと思うが、
たぶん面白くできているんじゃないかと思っている。

本作においても、小説でありながら、
演劇を強く意識しているとしか思えないところは、踏襲される。
だから、映画でも、小説同様、
続編が出来上がったとしても不思議ではない。
どたばたぶりはこっちのほうがより強い。
単純な意味での新鮮さは前作が一歩リードするが、
全体的なドライブ感では、本作が優る。

舞台は前作のマンション。
何とか無事にマンションから出て、いざ逃走という段になって、
新たなトラブルが発生する。
仲間のそれぞれが、関係者の思惑に飲み込まれていき、
前作以上のどたばた劇になる。今回もエレベーターが働いています。

内容については一切触れないのが良識というものだろう。