帰蝶2021-09-21

諸田玲子

諸田作品を読むのはずいぶん久しぶりになる。
記録を残しているものは2作品ある。
『月を吐く』(瀬名=家康室今川殿)
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2007/01/01/1085756
『犬吉』
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2006/05/10/359613

久しぶりに手を出したのが「帰蝶」ということになる。
信長室・濃姫は没年など不明な点が多くて、
いろいろな作家が扱いに苦慮しつつ
信長の勢力拡張に際して重要な役どころを与えている。
が、たいていの場合後半になればフェイドアウトしていき
姿を見失わさせられる。
あの大河ドラマでも光秀に謀反を決意させるに重要な役どころを与えたが
途中では姿を見せないでいる。

その帰蝶を活写したといえるのが本書ということになろう。

巷説では比較的早い時期に死去していたとするものや
京で仏門に入り暮らしていたとするもの、
本能寺で信長とともに戦い討ち死にしたなどとするものがあったりしたが、
諸田さんは信雄の残した資料などから本能寺後も生き残り天寿を全うしたとの説をとる。
そのうえで織田政権樹立に深くかかわった禁裏御蔵職・立入宗継に
帰蝶との間の心交流を付与し、それが本能寺の因になったとする。

本書の読みどころは帰蝶の目を通して語られる信長にある。

始めは信長の苛烈さを”面白い”としていたが、
信長の苛烈さが勢力拡張に応じて苛烈になるさまを見て怖れを持ち
それでも信長の底流にある愛のありようにも魅かれている。
それが妙にすっきりと落ち着くところがいい。
立入宗継に感じる行為もまた微妙なものではあるけれど腑に落ちる。

戦国を生きた女性たちの覚悟が 見事に描かれた一冊と覚えた。