秀吉の活2021-09-22

木下昌輝

「宇喜多の捨て嫁」と「天下一の軽口男」で気に入り、
「宇喜多の楽土」
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2021/03/04/9353529
に続いて手を出したのが本作。

大綱出世物語で取り上げられた事跡の描写がない、
帯にある通り「こんな秀吉、読んだことがない」のである。
それから本作品は対策といってよい。600ページもあるのだから。
ただ長さは感じさせない。引き締まったたたずまいである。

タイトルの活は二重の意味がある。
ひとつは就活とか妊活といった意味での「活」
いま一つは「活かす」という意を字義通り追い求めた秀吉の生きざまだ。

秀吉の一生を十の時期に分け
信長という主に巡り合うまでを「天下人に就活」、
以下「婚活」「昇活」「凡活」「勤活」「転活」「天活」「朝活」「妊活」「終活」と続く。
元は新聞連載小説で単行本出版時に「朝活」が加えられ十章構成になったとのこと。

木下氏の太閤記といってよいのだが、
他の作品群との違いがどこかと僕なりの考えを示すなら、
数多の作品は、のちに関白となるほどの人物だから
当初より頭抜けた才能を発揮していた前提で書かれるのに対し、
木下氏は何者でもない無力な男が、周囲との関係で触発され
足搔いて自分なりに成長していったという書き方をする。

実父・弥右衛門から「生」きることと「活」きることの違いを教えられ、
同時に無名のものの虐げられる悔しさを覚え出世を考える姿を描く。
以後「活」きることを求めるが、いざとなれば他に勝る能力のない自分を見つけ、
折れそうになるたび、誰かに助けられ、少しづつ出世していく。
最大の助言は信長の一言であり、その「凡人を極めろ」が、
ついには信長の後継者へと続いた。

「終活」における秀吉の秀頼への手ほどきこそが、
この作品の肝である「活」の重みを表している。

いや、面白かった。