宇喜多の楽土2021-03-04

木下昌輝

この作者の著作は「宇喜多の捨て嫁」と「天下一の軽口男」に
ほか「決戦」シリーズでの商品をいくつかを読んでいる。
「天下一の軽口男」は笑いの道を追い求め、
権力にこびず、困難に立ち向かいまい進した米沢彦八が描かれる。
今の落語や漫才等の軽演芸を確立させたとも思える男の障害が痛快。
「宇喜多の捨て嫁」は、デビュー作にして高校生直木賞受賞の快作。
戦国3悪人と評され悪人として宇喜多直家は一般に語られる。
だが「宇喜多の捨て嫁」は、その直家像を覆している。
娘や元主などから直家を描き、直家がなぜ暗いありように落ちたかを説く。
凄絶な戦国武蒋のありようを浮かぶ上がらせる趣向が良かった。

本作では「宇喜多の捨て嫁」で浮かび上がった直家像を引き継いでいる。
その直家と開拓地で問答し、家督を引き継ぐ秀家が主人公だ。
序章は山崎の戦の後、秀家と秀吉の謁見の場から始まる。
毛利との係争地を持つ宇喜多家として秀吉との謁見は大きな意味を持つ。
毛利との交渉は秀吉にとっても西方の大勢力との関係維持のため、
宇喜多を犠牲にすることが考えられるのだ。
謁見の場での秀吉の養女となった前田の娘・豪姫との出会う。
そして豪姫の素朴な願いを聞き入れあることを実行する。
そのために秀吉から脅されることにもなり、関が原戦後に生き残ることができる。
羽柴への人質時代に出会う英次・秀保・秀秋ら秀吉の養子たちとの交友。
豪姫との婚姻による秀吉一門に属する経過や、利家との関係、
そうしたものが描かれていく。

実は宇喜多秀家については、中納言に列されるほどでありながら、
朝鮮侵略や関ヶ原合戦などの行動以外はあまり伝わっていないようなのだ。
領国でお家騒動などあったのにもかかわらず、
関が原では西軍で毛利に次ぐ動員兵力を誇っている。
家臣団がボロボロになってさえ、力があったわけだ。

なぜ宇喜多秀家は石田三成に与したのか。
秀家の人間関係から組み立てていく。
そして流刑地で没することも、豪姫との結びつきとする。

タイトルに見る楽土とは何か。
謀術を駆使し、主家を追い落とし、戦国大名として台頭した直家
彼の見果てぬ夢・公界の建立、それを継ぐべく苦闘する秀家。
優しすぎる親子2代の安らかなる国への思いが砕けていく。

最後に置かれる言葉が痛切さをもって響く。
「腑抜けの大将か」と言葉を投げつけられつぶやく。
最初からそのように生きることができれば、どんなにか楽だったか。
直家と、利家と、その他の人々との約束を守ろうと、あがき戦い続けた男の、
ただ前にある、足りるを知る生活、こそが、敗れた楽土の成就した姿であったろう。

直家とは対照的な、詐術を廃し誠実に生きる姿が爽快さを与える。

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