春季限定いちごタルト事件2008-02-04

米澤穂信   東京創元社(創元推理文庫)   580円

『犬はどこだ』
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2005/09/15/75552
で米沢作品に出遭って、なかなか楽しませてもらったから、
いつか読んでみようと思っていた作品だ。
『犬はどこだ』が大人向けのミステリだったので、
タイトルの可愛さにギャップを感じつつ読んでみた。
なるほどタイトルの意味がわかった。
米澤氏は作家としてのデビューは角川学園小説大賞であり、
角川スニーカーで作品を発表していたという。
いわゆるライトノベルがスタートだ。
1978年生まれで、丁度30歳を迎えるところということで、
これから作家として一段と成熟していく過程なのだろう。
デビュー後はししばらく不遇だったということだが、
創元社に発表の舞台を移してからは、
コンスタントな評価と売り上げを得るようになっっているようだ。
最近では作品の幅も広がってきているということである。

さて、本作品集は連作短編になっている。
ひとつずつの短編の積み重ねが絡み合い、
最後には大きな事件となるというものであるる

登場する主要人物は小鳩君と小山内さんという高校生だ。
脇役に堂島健吾という体力がとりえの同級生が登場する。
小鳩と小山内は中学の同級生。小鳩と堂島は幼馴染という設定。
小鳩には、ちょっとした観察力と推理力があり、
その能力を鼻にかけたため、中学時代に嫌な思い出がある。
高校生になった今、普通の高校生になろうと考えている。
小山内も、ある種の能力を隠し、平凡な女子高生を目指している。
二人は小市民を目指している同志なのである。
堂島は小鳩のちょっとした能力を知っていて、一目も置いている。
そういう関係の3人が、小さなナゾを協力して解きほぐしていくこととなる。

名探偵たる能力をひた隠したい小鳩の前には、
ポシェット捜索に協力を求められたり、
時間をかけずに鍋も使わず出されたココアのナゾなどが、
次から次へと発生し、小市民足り得ないところを露呈する。
小山内の問題は明かされないまま、物語が進むが、
やがて読者は小山内の秘密に気づく。
敵対するものを容赦なく叩き潰すという狼的性格を持っているのだ。

小市民的であろうとする二人の本性を刺激する日常の様は、滑稽である。

ちっちゃくて可愛い小山内と小鳩の関係って、
恋人みたいと思うのだけれど、
こんな女の子と付き合った日には命がいくつあっても足りません。
続編ではどんな展開が待っているのか。興味が尽きない。

ライトノベル好きにも薦められる一冊です。