繁殖場村 22010-10-09

前回『繁殖場村』で、
どうぶつ基金理事長・佐上邦久氏のレポートについて、
ど素人ながら、少し考えた。
佐上氏は、長年動物愛護に関わってこられ、
先ごろ動物愛護に功労があったとして表彰された、
前どうぶつ基金(当時は富岡操動物基金)理事長・山口武雄氏と伴に、
数々の業績を残してきているらしい。
(そのあたりは、『鳥の広場』などでも確認できます。)

プロ中のプロといってよい佐上氏が提言する繁殖場村構想とは、
どれほどの雄大な構想なのだろうかと期待していたのです。
綿密にシミュレーションし、業として十分な利益確保ができ、
さらに劣悪繁殖工場といった概念を吹き飛ばす、
犬への慈愛に満ちたブリーダー経営スタイルが示されているのだろうと、
ブリーダー業の3Kのイメージを覆す画期的提案に違いないと、
大いなる期待していたのだが…

30頭の母犬で年間200頭作出するというところで、
基礎的な理念が、経営シミュレーションの前に、
無残に潰えるしかないという現実を知らされた。
プロ中のプロが考えても、繁殖を事業として捉えるためには、
犬たちの劣悪な環境改善は犠牲にせざるを得ないのかと思った。

多くの動物愛護関係者f夢のように語る。
美しく清潔に保たれた環境で、
動物好きな経営者が、ストレスを感じさせられることもなく
大切に育てた母犬たちに産ませた子犬たちを、
犬を飼いたい人に継いでいく。
そういうイメージは成り立たない現実に気づくものとなっている。


前回は母犬の交配スケジュール上の見込み違いについて触れた。
今回は、佐上氏の考えている規模が適正として、
飼育に関わる経費の内容について吟味したいと思います。

まず佐上氏の提案骨氏の一部をもう一度載せてみます。

-------以下、佐上氏提言------------

想定されるネガティブな反応と対応
1. 実績がないので不安・・自治体の理解と応援を得ている。
2. 収入は確保されるのか?・・犬の感染症などに備えて組合内での相互扶助組織
ブリーダー経営のアウトライン
団地では30 組のブリーダー経営者による運営を第一期(開設後3 年まで)として想定します。
なお、1 組とは 家族を指します。
その際の経営シミュレーションは下記の通りです。

飼育する犬種は中型犬、小型犬、超小型犬とする
1 組(2 人)の母犬飼育頭数 30 頭
年間出荷頭数 200 頭 (総数6,000 頭)
売り上げ 1,200 万円 60,000×200
飼育に関わる経費 300 万円(母犬と子犬の飼育費医療費など)
犬舎維持管理固定経費 200 万円
当初資金の償却 100 万円 (5 年償却)
利益(2 人の人件費) 600 万円

------以上、引用終わり。-----------

前回は、作出頭数への見積もりの甘さを感想としてあげたが、
今回は飼育に関わる経費の見積もりの甘さである。
母犬の負担を最小限にしながら、年間200頭生産するためには、
母犬30頭は厳しいという考えは前回で述べた。
この条件自体が厳しい条件とは思うのだが、
あくまで母犬30頭として以下考えてみる。

飼育費と医療費、あわせて300万円で足りるか。
ずばり、絶対に足りないと思う。
一頭あたりの経費として考えたら、
母犬一頭あたりで年間10万円の予算となる。
その費用内で2度の出産に堪えられるかということを考える。

フィラリア予防、蚤ダニ予防、混合ワクチン、狂犬病予防注射。
これらの基礎的な経費だけで、一般家庭では2.5-3万円掛る。
(うちなどは大型犬なので一頭当たり5万超しています。)
ブリーダーなので、獣医師の指導の元での代理接種や、
大口需要者割引があったりで、1万円にまで圧縮はできるかもしれない。
しかし、いくら経費を切り詰めても、そのあたりが限界となろう。
そのほかに母犬の健康チェックも定期的に必要となろう。
交配時期にはエコー検査やレントゲン検査も見込んでおく必要がある。
そのように考えれば母犬1頭あたり、
仮に妊娠していなくとも2万円が医療経費と見られよう。

母犬のえさ代として、(中型から超小型としているので)
一日の平均給餌量は200グラム程度と仮定する。
母犬一頭当たり、年間70キロ。
アイムスあたりの初級フードでも、,一般家庭なら3万円。
ブリーダー価格であっても2.5万円。
しかし、母体として使うのだから、
もう少しバランスの取れた餌料を与えなければならないだろう。
なにかのサプリメントを遣うようなことも考えられるか。
おやつの類は一切与えないと仮定して、
最低でも3万円程度は掛るというものだろう。

そのうえに、小型、超小型犬の場合、
帝王切開などが必要なケースも多い。
どの程度の異常出産が在るのかは不明だが、
仮に5%相当あるとすれば、
これに掛る医療費は相当額となる。
延べ60回の出産に対して3回程度の異常出産は、
想定できる数字と思う。
獣医への報酬がいくらになるか想像もつかないが、
帝王切開だけと仮定して15万円以上は掛りそう。
その他の症例もあり、出産がらみの経費総額の算出は難しい。
一頭あたりの経費としては5千円ほど組み込んでおくことにする。

次に、子犬の成育に眼を向けよう。
出生から出荷までの基本診断は絶対に必要だ。
特にレントゲン撮影は出荷までに一度はしなければならないだろう。
これらの費用は原価に近い額でも3千円はいるだろう。
母犬一頭あたりの経費に直せば2万円だ。
さらに、2ヶ月過ぎには一度目の5種混合が待っている。
この5種混合ワクチンは、無駄がないと仮定して、
1ビンを使い切るまで使用すると仮定しても一頭千円。
一般の飼い主の治療では、
獣医は注射針や注射器は一頭ごとで替えます。
また、ビンの残液も捨て去ります。
繁殖場で胴体でいっせいに接種できるから、
ワクチンに無駄がないようにできたとして、
母犬一頭当たりに6700円掛ります。
合計で医療費は葉は犬一頭辺りの子犬に対して2.5万円。
その他、成長過程での小さなトラブルからの怪我、
軽度な病気にかかることもあろう。
それら突発的に必要な別途医療費が加算される。
これらは状態に応じての費用となる。
ここでいる医療費は一頭当たり千円を、
保険的に見込んでおけば何とかなるのかもしれない。
200頭を出荷していく上では無視できない要素ではある。

フードについては
全頭母乳で成育できれば良いが、
さまざまな理由から母乳で育たない個体が発生する。
人口授乳は結構負担が大きくなる。
離乳期から離乳後は、親犬とは別の、
子犬の成育に適したフードを与えるなりする必要がある。
そしてその量は半端ではなくなる。
生後3ヶ月過ぎまでは市場に流通させず、
母犬の元で、兄弟と一緒にしておき、
社会化期を経させ、社会性を見につけさせようとするのが、
動物愛護団体の主張である。
その考え方に、全面的な賛意を示すものだ。

そうすると、離乳期から90日齢までの間の食費が掛る。
子犬の必要とするカロリーは成犬と比較すると大きい。
つまり多量に消費する。
大雑把に200頭の子犬に使用するフード量は600キロを超してくる。
(佐上氏の提案が超小型から中型)なのでシミュレートできない)
おそらく25万円以上80万円未満の範囲と想定できる。
一頭辺りでは2千円程度から4千円程度と見て良いだろう。
ここでは2千円と見ておく。
一頭あたりの母犬の子犬に与えるものとして1万3千円。

この時期の給餌については、一日に何回も与えたほうが良いとされ、
週齢にもよるが、大体は一日4回と考えたらよいだろう。
政権とは違い排便排尿も一定した時間にということは望めず、
糞尿処理なども頻繁となる。
家族だけでの零細繁殖業者であれば、
アルバイトで良いから一名程度のスタッフが必要となるのではないか。
この人材確保については、
繁殖場村を作り上げることでの恩恵がありそうだ。
繁殖場ごとの契約でなく、村としての契約であれば無駄を削減できる。
この人件費は、
佐上案では犬舎維持管理固定経費 200 万円に含まれているのかもしれない。
光熱水費と施設什器の更新で200万円というのは、
他の見積もりと比べたらやや大きい。
しかし、人件費が含まれると考えたら、低すぎる。

人件費がどこに含まれているのかは無視して、
ざっと合算したら犬1頭あたりの経費は次のようになる。

母犬餌代              2万円
母犬医療費            3万円
子犬餌代(6.7頭分)       1.3万円
子犬医療費(6.7頭分)     2.5万円
               
母犬が30頭として、全くのロスが発生しないとの前提で考えても、
一頭当たり経費の額は10万円に対して8.8万円。
ほとんど繁殖工場的=子犬製造工場な乗りを余儀なくされそうです。

動物愛護団体が主唱する年一回出産を守ろうとしたら、
母犬の経費が倍になると仮定できます。

そうすると夫婦で業に従事して600万円の収入は期待できなくなります。
アルバイトをどの程度採用するかによってはね
一家の収入が300万円を切ってくることも考えられます。

この状態を保つのには、
8歳以上の繁殖不適犬を持たないということも条件となります。
もし繁殖に適さない犬を抱え込んでしまえば、
さらに収入は少なくなっていきます。
場合によれば、癌やその他の医療費を払うことになってしまえば大赤字になります。
手取りが0円になったとしても不思議ではなくなります。

そのために考えられているのが、
繁殖工場村に対応する、動物愛護村構想のようです。

一方の繁殖工場村構想の成功が非常に厳しいので、
対となる動物愛護村構想も成功の道は狭いといえそうです。

繁殖場村企画を、もう少し深くシミュレートされないと、
動物愛護村構想も企画倒れに繋がりそうです。
対象が生き物でないのなら、とりあえず事業展開を実験的に行うのもありでしょう。
でも、生き物対象の事業を町村主導で行っての失敗は、
取り返しの効かないダメージになります。
現時点の提案では甘言というほかありません。
もう少し採算性などを見直した上での再提案があるまで、
安易に乗せられないよう慎重な吟味が必要なようです。

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