秀吉の枷 上巻2006-05-22

ぶるぶる写真第4弾
加藤廣 日本経済新聞社 1600円

「信長の棺」が面白かったので買った。
「信長の棺」は本能寺の変をめぐる歴史ミステリであり、
非常に完成度の高い作品で、
僕の知る限りの本能寺の解釈では、ぬきんでたものといえる。

「秀吉の枷 上巻」は「信長の棺」のストーリーを秀吉側から描いている。
この手の物語間の広げ方は、
「影武者徳川家康」から広がった隆慶一郎の世界が思い起こされる。
しかしながら、上巻を読んだ限りでは
隆ワールドほどの広がりを見せていない。
下巻が楽しみではあるが、
著者は「信長の棺」でアイデアを使い尽くしたのかもという気もしている。

物語は秀吉の三木城攻めから始まる。
半兵衛の遺言がすべての発端になるという設定である。
本能寺の真相を「信長の棺」の大田牛一探偵の推理した過程が、
秀吉側から語られると、なんか無理があると感じられる。
「信長の棺」が謎解きが主眼となっていたのに対して、
「秀吉の枷」が、そこで語られた真相らしくものを
史実として扱うがため生じる、パズルあわせ上に齟齬があるのか、
すっきりとしない“もやもや”感が感じられる。
それでも加藤氏の描く世界は破綻していないし魅力がある。

下巻では秀吉の狂う時期が語られるが、
本能寺の変と、どう関連付けていくのかが見ものである。
売れるものには売れるだけの理由がある。