スイート・マイ・ホーム2021-09-27

神津凛子

沼田まほかるに真莉幸子、湊かなえあたりが登場したころ
一群の作品をいやミスというようになった。
この神津作品は、それを超える「おぞミス」と名付けられている。
たしかにこのミステリの犯人役は悍ましい。
その身体能力も、ほぼ化け物といってよい。
よくこんな人物像を生み出したものだと感心する。
感心できないのは、もはや人ではない点。
ホラーにしたほうがはまりましょうに。

可愛い長女に、生まれたばかりの次女、ハンサムな旦那と美人の嫁、
人もうらやむ幸せいっぱいの家族がマイ・ホームを立てる。
担当は美しい長い髪の女性で夫婦ともどもとも良好な関係。
地下に据えた空調設備だけで家全体が冬は暖かく、夏は涼しい、
それでいてランニングコストは個々の部屋に空調を入れるよりいい。
理想的な家族と家。この取り合わせが奈落の底に転がっていく。

家の屋根裏などに人がいるという物語はいろいろあるが、
こんな気持ちの悪い人を住まわせるのは空前絶後に思う。
原さんの「床下仙人」も不気味ではあったが、クスッとさせる味があった。
この作品は余裕なし。気持ち悪いだけなのだ。
(そうはいっても読み物として嫌いではないが)

進むにつれて登場人物たちの裏の顔が暴かれていく。
ハンサムな旦那が閉所恐怖症なのだが、それさえ悍ましい過去がある。
美人の嫁は壊れていく中で悍ましい犯罪を犯すし、
美人担当は、ほぼ、怪物だ。
開始時に異常かと思えた男が、後半に反転してまともに思えるのが唯一の救い。

物語の世界も、いよいよ行き着く場所がなくなってきたようだ。
ダークな作品は嫌いではないが、ここまでくると考えこむ。
物語には明るさがあったほうがいい。