戦国十二刻 終わりのとき ― 2022-07-07
木下昌輝
豊臣秀頼、伊達輝宗、今川義元、山本勘助、足利義輝、徳川家康。
これら6人の武将たちの最後の24時間を描いた小篇集。
伊達輝宗の最後を描く「子よ、剽悍なれ」は伊達政宗視点で、
山本勘助を描く「山本勘助の正体」は武田義信を語り部に、
その他は本人視点で紡がれる。
いずれも意表を突かれる作品群である。
中でも秀頼を描く「お拾い様」は
淀殿の狂気じみた愛がもたらす結末に呆然とさせられる。
この淀殿描き方は、滅びを導いた愚者の像を完全に否定する。
また家康の最後を描く「さいごの一日」の
南蛮時計の針と家康の回想がなされる進行に静謐を感じさせられる。
なかなかお目にかかることのない趣向に満ちた作品集だ。
木下昌輝の生み出す作品群は
他の新しい歴史小説の旗手たちのそれぞれに趣向を凝らした作品から
一歩抜け出している。そう思うのである。
豊臣秀頼、伊達輝宗、今川義元、山本勘助、足利義輝、徳川家康。
これら6人の武将たちの最後の24時間を描いた小篇集。
伊達輝宗の最後を描く「子よ、剽悍なれ」は伊達政宗視点で、
山本勘助を描く「山本勘助の正体」は武田義信を語り部に、
その他は本人視点で紡がれる。
いずれも意表を突かれる作品群である。
中でも秀頼を描く「お拾い様」は
淀殿の狂気じみた愛がもたらす結末に呆然とさせられる。
この淀殿描き方は、滅びを導いた愚者の像を完全に否定する。
また家康の最後を描く「さいごの一日」の
南蛮時計の針と家康の回想がなされる進行に静謐を感じさせられる。
なかなかお目にかかることのない趣向に満ちた作品集だ。
木下昌輝の生み出す作品群は
他の新しい歴史小説の旗手たちのそれぞれに趣向を凝らした作品から
一歩抜け出している。そう思うのである。
密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック ― 2022-06-30
鴨崎暖炉
このミス2021年度文庫グランプリ受賞作品
このミス大賞新人作家の登竜門ではあるが、受賞作品は完成度の高いものが多い。
で、結構手に取る。本作品も結構楽しめた。
過去の密室トリックを系統だて定義しているあたりが興味深いが、
犯行の動機や犯人像には飛躍がありすぎてついていけないし、
また、本作中の事件のトリックについては机上の空論のような気がします。
それらの部分は会話のテンポというか、著者のセンスでカバーされています。
まあ、先行する密室トリックもほとんどが現実には実現性が低いので
たいして問題とはならないのでしょうが。
物語の設定は、事件現場に対して不在照明がされれば
いかなる動機を持っていようと見に問えないのと同じで、
いかなる動機を持つ者がいようと、密室状況の下で事件があった時、
その密室のからくりが解き明かされなければ、
その者の犯行を問えないという判決がなされたとしている。
そのため密室事件が多発している日本が舞台。
人里離れた場所にある、かつての人気ミステリ作家の別荘雪白館。
現在はホテルとして営業している。
このホテルの売りはオーナーの料理と作家の密室を使った未解の謎。
そのホテルを舞台に連続して起きる密室殺人。
犯人は誰。閉ざされた空間での事件であり、
そこに居合わせた12人の誰が犯人なのか。
探偵役が多いうえに、探偵役と犯人と黒幕が一緒だとか、
探偵役の一一人は早々に殺されるなど、手が込んでいる。
ノックスの十戒とモーセの十戒を並べていたり、
他の作品群をさりげなく引用したりと小ネタも多彩。
主要登場人物のキャラもたっているし、会話も軽妙。
液体窒素を用いたトリックなどは頭でっかちな気がするが、
全体としてよく考え抜かれた印象がある。
考え過ぎが瑕疵と思うのだが、ま、これもアリか。
このミス2021年度文庫グランプリ受賞作品
このミス大賞新人作家の登竜門ではあるが、受賞作品は完成度の高いものが多い。
で、結構手に取る。本作品も結構楽しめた。
過去の密室トリックを系統だて定義しているあたりが興味深いが、
犯行の動機や犯人像には飛躍がありすぎてついていけないし、
また、本作中の事件のトリックについては机上の空論のような気がします。
それらの部分は会話のテンポというか、著者のセンスでカバーされています。
まあ、先行する密室トリックもほとんどが現実には実現性が低いので
たいして問題とはならないのでしょうが。
物語の設定は、事件現場に対して不在照明がされれば
いかなる動機を持っていようと見に問えないのと同じで、
いかなる動機を持つ者がいようと、密室状況の下で事件があった時、
その密室のからくりが解き明かされなければ、
その者の犯行を問えないという判決がなされたとしている。
そのため密室事件が多発している日本が舞台。
人里離れた場所にある、かつての人気ミステリ作家の別荘雪白館。
現在はホテルとして営業している。
このホテルの売りはオーナーの料理と作家の密室を使った未解の謎。
そのホテルを舞台に連続して起きる密室殺人。
犯人は誰。閉ざされた空間での事件であり、
そこに居合わせた12人の誰が犯人なのか。
探偵役が多いうえに、探偵役と犯人と黒幕が一緒だとか、
探偵役の一一人は早々に殺されるなど、手が込んでいる。
ノックスの十戒とモーセの十戒を並べていたり、
他の作品群をさりげなく引用したりと小ネタも多彩。
主要登場人物のキャラもたっているし、会話も軽妙。
液体窒素を用いたトリックなどは頭でっかちな気がするが、
全体としてよく考え抜かれた印象がある。
考え過ぎが瑕疵と思うのだが、ま、これもアリか。
八本目の槍 ― 2022-06-29
今村翔吾
『塞王の楯』が直木賞を受賞しますます人気が出ている今村さん。
著者の作品を読むのは『童神』に次いで2冊目となる。
その時の感想はこちら↓
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2020/09/24/9298713
この小説は石田三成を、賤ケ岳7本槍を通して描き出す趣向となっている。
従来の作品では三成を含む文治(官僚)派と武断(軍人)派との確執が
豊臣家臣団の分裂を生んだとする。
中でも加藤清正と福島正則が三成を憎み対立するのが鉄板となっている。
それを覆すのが今村作品の面白さである。
加藤清正に始まり、糟屋武則、脇坂安治、片桐且元、加藤嘉明、平野長泰と続き
最後に福島正則が三成との関係を騙る。
そこから滲みだしてくるのは三成という大才の仁気あふれる姿なのである。
そして清正にせよ、正則にせよ、に次なりを決して厭うのものでなかったとする。
たしかに確執はあり、東西に分かれた三成と清正、正則であるが
それは豊臣家をどう守るかという路線対決であり、
対人関係のまずさにのみが原因とはしていないのだ。
だから、官名で呼び合わず小姓時代の名で語り合わせる。
誰もが三成を認めている。が、ある者は敵対し、ある者は殉じていく。
このありようが美しくないわけがない。
新たな彼らの姿は、凄絶に美しい。
できれば事実もこの作品のようであれかしと願う。
従来の作品群より、それぞれが人間らしくていい。
最後に配された正則が淀殿に放つ言葉が、
この作品のタイトルとなった肝であり、本作を一級品足らせたすべてだ。
七本槍と三成の真の形が、これにある、と思わせる力作だ。
『塞王の楯』が直木賞を受賞しますます人気が出ている今村さん。
著者の作品を読むのは『童神』に次いで2冊目となる。
その時の感想はこちら↓
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2020/09/24/9298713
この小説は石田三成を、賤ケ岳7本槍を通して描き出す趣向となっている。
従来の作品では三成を含む文治(官僚)派と武断(軍人)派との確執が
豊臣家臣団の分裂を生んだとする。
中でも加藤清正と福島正則が三成を憎み対立するのが鉄板となっている。
それを覆すのが今村作品の面白さである。
加藤清正に始まり、糟屋武則、脇坂安治、片桐且元、加藤嘉明、平野長泰と続き
最後に福島正則が三成との関係を騙る。
そこから滲みだしてくるのは三成という大才の仁気あふれる姿なのである。
そして清正にせよ、正則にせよ、に次なりを決して厭うのものでなかったとする。
たしかに確執はあり、東西に分かれた三成と清正、正則であるが
それは豊臣家をどう守るかという路線対決であり、
対人関係のまずさにのみが原因とはしていないのだ。
だから、官名で呼び合わず小姓時代の名で語り合わせる。
誰もが三成を認めている。が、ある者は敵対し、ある者は殉じていく。
このありようが美しくないわけがない。
新たな彼らの姿は、凄絶に美しい。
できれば事実もこの作品のようであれかしと願う。
従来の作品群より、それぞれが人間らしくていい。
最後に配された正則が淀殿に放つ言葉が、
この作品のタイトルとなった肝であり、本作を一級品足らせたすべてだ。
七本槍と三成の真の形が、これにある、と思わせる力作だ。
事故物件いかがですか 東京ロンダリング ― 2022-06-28
原田ひ香
「三千円の使い方」が平積みされえいるのを見て、
少し気になっていた作家です。
で、本屋で見ていてタイトルに惹かれて手に取ったのが本書です。
事故物件…殺人事件・自殺・孤独死など心理的な瑕疵を持つ不動産。
所有者にとってはそうした瑕疵があることは死活問題となる。
その問題を解決するのがルームロンダリングという手法。
そういう闇の商売があったとしても不思議やないと思うし、
もしオーナーの立場であったなら使いたくなろうというもの。
また作中で闘争する【失踪屋】なるものもあっても不思議やない。
この作家面白いやないか。
独立した短編ともなる8小品が、絡まり合いながら進行していく。
「三千円の使い方」が平積みされえいるのを見て、
少し気になっていた作家です。
で、本屋で見ていてタイトルに惹かれて手に取ったのが本書です。
事故物件…殺人事件・自殺・孤独死など心理的な瑕疵を持つ不動産。
所有者にとってはそうした瑕疵があることは死活問題となる。
その問題を解決するのがルームロンダリングという手法。
そういう闇の商売があったとしても不思議やないと思うし、
もしオーナーの立場であったなら使いたくなろうというもの。
また作中で闘争する【失踪屋】なるものもあっても不思議やない。
この作家面白いやないか。
独立した短編ともなる8小品が、絡まり合いながら進行していく。
孤闘 立花宗茂 ― 2022-06-27
上田秀人
東の本田忠勝、西の立花宗茂。秀吉に剛勇を称されたた武士。
関ヶ原の役で西軍に就き改易された将のうち
ただ一人旧領を復した宗茂の生涯を描く一品。
まあ普通に楽しんで読めばいい。
面白さに不足はないけれど、新しくもなければ
視点に新機軸があるのでもなし。
後世に残るようには思わないけれど、読めば面白い。
上田作品では「翻弄 盛親と秀忠」
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2022/04/06/9479326
のほうが比較しているところが楽しめると思う。
東の本田忠勝、西の立花宗茂。秀吉に剛勇を称されたた武士。
関ヶ原の役で西軍に就き改易された将のうち
ただ一人旧領を復した宗茂の生涯を描く一品。
まあ普通に楽しんで読めばいい。
面白さに不足はないけれど、新しくもなければ
視点に新機軸があるのでもなし。
後世に残るようには思わないけれど、読めば面白い。
上田作品では「翻弄 盛親と秀忠」
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2022/04/06/9479326
のほうが比較しているところが楽しめると思う。
彼女の知らない空 ― 2022-06-27
早瀬耕
ロシア軍に抵抗するウクライナ軍はドローンを使う攻撃をする。
それは、常に生命のやり取りをし、死の恐怖と向き合う戦争の姿を変えた。
戦争の姿がこのように変化した例を知ったのは
湾岸戦争が最初だった。
その後の戦争は、モニター上で破壊を行うゲーム画面になってきた。
だからそこに人を殺す実感がるのかとの疑問を感じていた。
この優れた短編集は表題作において、ある思考実験をしている。
そこが無性に怖い世界に思える。
収められる他の6篇いづれも、
21世紀が抱える危機的混沌に抗う術があるのかの問いかけだ。
何かしら小説を読むことに深さを求める人には良品。
字面の面白さにのみ酔いたいのなら手を出すものじゃない。
ロシア軍に抵抗するウクライナ軍はドローンを使う攻撃をする。
それは、常に生命のやり取りをし、死の恐怖と向き合う戦争の姿を変えた。
戦争の姿がこのように変化した例を知ったのは
湾岸戦争が最初だった。
その後の戦争は、モニター上で破壊を行うゲーム画面になってきた。
だからそこに人を殺す実感がるのかとの疑問を感じていた。
この優れた短編集は表題作において、ある思考実験をしている。
そこが無性に怖い世界に思える。
収められる他の6篇いづれも、
21世紀が抱える危機的混沌に抗う術があるのかの問いかけだ。
何かしら小説を読むことに深さを求める人には良品。
字面の面白さにのみ酔いたいのなら手を出すものじゃない。
ひとんち 澤村伊智短編集 ― 2022-04-20
澤村伊智
「ぼぎわんが、来る」でさっそうと登場した澤村さん。
比嘉姉妹を中心にした物語を次々発表し、
オンリー・ワンな活躍を見せている。
澤村作品は「ししりばの家」も含め比嘉姉妹シリーズは読み続けている。
それらは以下の感想を書いている。
ぼぎわんが、来る 澤村伊智
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2018/12/03/9006251
ずうのめ人形 澤村伊智
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2018/12/17/9013190
などらきの首 澤村伊智
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2018/12/31/9019107
ぜんしゅの跫/澤村伊智
https://kumaneko.asablo.jp/blog/2021/03/04/9353532
「ひとんち」は比嘉シリーズではない。8短編が収められている。
それぞれに趣が異なるホラーなのだが、
比嘉シリーズに比べると恐怖の質が随分と違う。
SF的な「宮本君の手」や「自分ち」といったもの、
ダーク・ファンタジーともいえる「闇の花園」などなど多彩だ。
「闇の花園」など,虐待を疑い解決を考える教師が独り相撲を取った挙句
大魔王の誕生を促していく趣向となっていて、
なんとも言えない不気味さをかもしている。
表題作はアルバイトで知り合った女子三人が
旧交を温めるのほほんとした会話から、互いの家の違いが語られていき、
最後にドロッとした違和感を持たせる作りになっている。
どの作品も,ありふれた日常があるところでくるっと回転し、
全くの非日常にさまよいこむ恐ろしさに転換される。
サキだとかダールに感じる怖さがある。
「ぼぎわんが、来る」でさっそうと登場した澤村さん。
比嘉姉妹を中心にした物語を次々発表し、
オンリー・ワンな活躍を見せている。
澤村作品は「ししりばの家」も含め比嘉姉妹シリーズは読み続けている。
それらは以下の感想を書いている。
ぼぎわんが、来る 澤村伊智
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2018/12/03/9006251
ずうのめ人形 澤村伊智
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2018/12/17/9013190
などらきの首 澤村伊智
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2018/12/31/9019107
ぜんしゅの跫/澤村伊智
https://kumaneko.asablo.jp/blog/2021/03/04/9353532
「ひとんち」は比嘉シリーズではない。8短編が収められている。
それぞれに趣が異なるホラーなのだが、
比嘉シリーズに比べると恐怖の質が随分と違う。
SF的な「宮本君の手」や「自分ち」といったもの、
ダーク・ファンタジーともいえる「闇の花園」などなど多彩だ。
「闇の花園」など,虐待を疑い解決を考える教師が独り相撲を取った挙句
大魔王の誕生を促していく趣向となっていて、
なんとも言えない不気味さをかもしている。
表題作はアルバイトで知り合った女子三人が
旧交を温めるのほほんとした会話から、互いの家の違いが語られていき、
最後にドロッとした違和感を持たせる作りになっている。
どの作品も,ありふれた日常があるところでくるっと回転し、
全くの非日常にさまよいこむ恐ろしさに転換される。
サキだとかダールに感じる怖さがある。
オタクと家電は使いよう ミヤタ電器店の事件簿 ― 2022-04-20
田中静人
他人の心に疎い家電店長と、他人の事情に聡い店員が繰り広げる、
家電うんちくたっぷりの、人が死なないほっこりミステリ。
5つのエピソードからなっている。
笑わないけれどお客を笑顔にするため努力しているとする
電気店の求人広告に惹かれた森野美優嬢は、
笑うことができなくなった事情を抱えている。
なぜそうなっているのかはエピソードが進むたびに明らかになる。
なんでも対応する電気店店長は家電知識の豊富さで
客の悩みを解決しようとするが、他人の気持ちに気づけないため
些細な事実に気づけないところがある。
美優は、家電の知識はなくてミヤタの騙るうんちくと、
客の依頼内容と家電の働きとの微妙な目的の食い違いを感じ取り、
その違和感から隠された気持ちがあることに気づく。
元は笑えていた、笑わなくなった彼女だから見えるものが
心地よいものを読者に与える。
その他人の気持ちが見えないミヤタが、
美優の抱える問題を解決していく。
登場する人物はよい人ばかりで、甘いっちゃ甘い世界だけれど、
こういう物語は決して嫌いではない。
量販店との差別化を如何にするかという
町の小売店の悩みを題材にしている点でお仕事小説としても楽しめようが、
サービスの細分化で新たな仕事が発生している今、
ここに書くような戦略が有効なものか疑わしくなってきている。
伝説のような世界観が本当に続くか。
そうあってほしいとは思いつつも、やっぱり古い価値観になっているように思う。
他人の心に疎い家電店長と、他人の事情に聡い店員が繰り広げる、
家電うんちくたっぷりの、人が死なないほっこりミステリ。
5つのエピソードからなっている。
笑わないけれどお客を笑顔にするため努力しているとする
電気店の求人広告に惹かれた森野美優嬢は、
笑うことができなくなった事情を抱えている。
なぜそうなっているのかはエピソードが進むたびに明らかになる。
なんでも対応する電気店店長は家電知識の豊富さで
客の悩みを解決しようとするが、他人の気持ちに気づけないため
些細な事実に気づけないところがある。
美優は、家電の知識はなくてミヤタの騙るうんちくと、
客の依頼内容と家電の働きとの微妙な目的の食い違いを感じ取り、
その違和感から隠された気持ちがあることに気づく。
元は笑えていた、笑わなくなった彼女だから見えるものが
心地よいものを読者に与える。
その他人の気持ちが見えないミヤタが、
美優の抱える問題を解決していく。
登場する人物はよい人ばかりで、甘いっちゃ甘い世界だけれど、
こういう物語は決して嫌いではない。
量販店との差別化を如何にするかという
町の小売店の悩みを題材にしている点でお仕事小説としても楽しめようが、
サービスの細分化で新たな仕事が発生している今、
ここに書くような戦略が有効なものか疑わしくなってきている。
伝説のような世界観が本当に続くか。
そうあってほしいとは思いつつも、やっぱり古い価値観になっているように思う。
早朝始発の殺風景 ― 2022-04-18
青崎有吾
青崎有吾は1991年生まれというので30歳を少し回ったところとなる。
初めて読んだのは「体育館の殺人」で、これは鮎川哲也生を受賞している。
その探偵役を務めた裏染天馬が活躍するシリーズ以外は読んでいない。
作風的にはパズラーに属するのかなと思う。
似鳥鶏の私立高校シリーズや米澤穂信の古典部や小市民シリーズと
舞台や事件解決の過程などで通ずるところがあるが、
もう少し本格寄りな気がしている。
6-7年前に「図書館の殺人」読んだを読み、続編を出版の旅購入した。
以降、書店で新刊を見かけることがなく、続編を期待していた。
(一度他のシリーズを見かけたが趣味が合いそうになく見送った。)
新聞広告で本文庫の発刊を知り、気になったものの。
なかなか書店で実物を目にすることがなく、
この間やっと見つけて買ってきた。
裏染め天馬シリーズではなく独立した作品だ。
「裏染天馬シリーズ」同様に高校生が登場するのだが、
誰かが殺されるわけではなく
まあちょっとした不思議を解こうという日常の謎解きに属するものとなっている。
それにしても殺風景が女の子の苗字とは意表を突かれた。
変な名前というのなら「海野藻屑」なんて超ド級の命名もあるが、負けてない。
で、性格のきつさはまさしくなのであるが、
美少女かつハードボイルドにして、相当にツンデレで、参った。
連作短編集になっていて最初と最後(エピローグ)に殺風景がいる。
間の4作は、それぞれ描かれる人物は異なるが、
微妙に交錯する関係性が示されていて、
足りない関係の補足はエピローグで示される。
いい感じなさわやかな結末を、それぞれで示しつつ、
エピローグではちょっぴり不穏な復讐の遂行が示されているが、
殺風景のさりげないデレぶりが、恋の季節を予感させ終わる。
青春小説として秀逸です。
青崎有吾に望んだものとは乖離していますが。
そこを無視すれば良質な読み物でした。
青崎有吾は1991年生まれというので30歳を少し回ったところとなる。
初めて読んだのは「体育館の殺人」で、これは鮎川哲也生を受賞している。
その探偵役を務めた裏染天馬が活躍するシリーズ以外は読んでいない。
作風的にはパズラーに属するのかなと思う。
似鳥鶏の私立高校シリーズや米澤穂信の古典部や小市民シリーズと
舞台や事件解決の過程などで通ずるところがあるが、
もう少し本格寄りな気がしている。
6-7年前に「図書館の殺人」読んだを読み、続編を出版の旅購入した。
以降、書店で新刊を見かけることがなく、続編を期待していた。
(一度他のシリーズを見かけたが趣味が合いそうになく見送った。)
新聞広告で本文庫の発刊を知り、気になったものの。
なかなか書店で実物を目にすることがなく、
この間やっと見つけて買ってきた。
裏染め天馬シリーズではなく独立した作品だ。
「裏染天馬シリーズ」同様に高校生が登場するのだが、
誰かが殺されるわけではなく
まあちょっとした不思議を解こうという日常の謎解きに属するものとなっている。
それにしても殺風景が女の子の苗字とは意表を突かれた。
変な名前というのなら「海野藻屑」なんて超ド級の命名もあるが、負けてない。
で、性格のきつさはまさしくなのであるが、
美少女かつハードボイルドにして、相当にツンデレで、参った。
連作短編集になっていて最初と最後(エピローグ)に殺風景がいる。
間の4作は、それぞれ描かれる人物は異なるが、
微妙に交錯する関係性が示されていて、
足りない関係の補足はエピローグで示される。
いい感じなさわやかな結末を、それぞれで示しつつ、
エピローグではちょっぴり不穏な復讐の遂行が示されているが、
殺風景のさりげないデレぶりが、恋の季節を予感させ終わる。
青春小説として秀逸です。
青崎有吾に望んだものとは乖離していますが。
そこを無視すれば良質な読み物でした。
ワゴンに乗ったら、みんな死にました ― 2022-04-18
黒田研一
最後まで読んで、それでバカ話にもなっちゃいないと文句を言う。
そういう類の稀にみる駄作じゃないかと思う。
密室で起きる連続殺人であり、その事件を起こす犯人の動機と手段、
被害者の集まる経過と、それぞれの罪、
もう少しすっきりと納得させてくれるのなら、
楽しく読み終えることができたのかもしれない。
決して秀作とは思わなかっただろうけれど。
この著者の作品は「カンニング少女」を過去に手に取ったことがある。
珍しく途中で中断したまま放り出した小説である。
なんかアイデア自体はよいのだけれど、ご都合主義的であり、
物語に同調できずにページを追うのがしんどくなった。
今回は最後まで読んだ点では、まあ及第点なんだろうか。
でも最後までなにひとつとして納得できる代物にならなかった。
友人に食事東京案内を頼まれ、就職面接に呼ばれて、
理由は様々だが呼び出された場所で薬物を吸わされ意識を失い
ワゴン車の中に拉致された6人の男女。
携帯電話などは持ちさられていて
ワゴン車は仕掛けがあるらしく外に出られない。
そして犯人からのメッセージが。
決められたルートを制限時間内で移動せよ。
時間をオーバーすれば仕掛けた爆弾が爆発する。
無理にこじ開け脱出しようとすれば、やはり爆発する。
時間内で指示をこなせれば生き延びられるかもしれない。
こうして地獄のドライブがスタートした。
途中でさまざまなアクシデントに会い、一人、また一人命を落としていく。
ドライブ中に6人の接点が少しづつ明らかになる。
犯人がどのようにして5人を特定し、どのようにして集めたのか、
まったくもって謎のままだ。手段は書かれているが無理がある。
ワゴン車は中型車という表記が途中であるが
トラックでなければバス(マイクロ)が考えられるが、
ドライブ中の表現で1.8メートルの高さや幅にぎりぎりとあり、
ハイエースなどが想定されているようにも思う。
なのに自由に広さを変えるワゴン車の構造にびっくりだし、
ワゴン車に仕掛けられた罠もでたらめに思う。
装置としては自作できるだろうが、
物語で示されるほどの改造なら、かなりな技術がいる。
絶対に脱出できない構造なんて無理がありすぎる。
度重なる衝撃で壊れないワゴン車にも驚きだ。
けもの道を走破する能力にも無理がある。装甲車かいなという感じだ。
タイミングよく作動するわなの存在で、
読者はすぐに気づくはずだ、犯人は集められた6人の中にいる。
最後に明かされる犯人の動機にも、まるで共感できない。
拡大自殺を企んだにしても無理がありすぎないか。
ミステリとしては失敗しているだろうし、
サスペンスとしても共感できない。
ましてホラーでもない。
せめて「王様ゲーム」くらいのレベルが欲しい。
最後まで読んで、それでバカ話にもなっちゃいないと文句を言う。
そういう類の稀にみる駄作じゃないかと思う。
密室で起きる連続殺人であり、その事件を起こす犯人の動機と手段、
被害者の集まる経過と、それぞれの罪、
もう少しすっきりと納得させてくれるのなら、
楽しく読み終えることができたのかもしれない。
決して秀作とは思わなかっただろうけれど。
この著者の作品は「カンニング少女」を過去に手に取ったことがある。
珍しく途中で中断したまま放り出した小説である。
なんかアイデア自体はよいのだけれど、ご都合主義的であり、
物語に同調できずにページを追うのがしんどくなった。
今回は最後まで読んだ点では、まあ及第点なんだろうか。
でも最後までなにひとつとして納得できる代物にならなかった。
友人に食事東京案内を頼まれ、就職面接に呼ばれて、
理由は様々だが呼び出された場所で薬物を吸わされ意識を失い
ワゴン車の中に拉致された6人の男女。
携帯電話などは持ちさられていて
ワゴン車は仕掛けがあるらしく外に出られない。
そして犯人からのメッセージが。
決められたルートを制限時間内で移動せよ。
時間をオーバーすれば仕掛けた爆弾が爆発する。
無理にこじ開け脱出しようとすれば、やはり爆発する。
時間内で指示をこなせれば生き延びられるかもしれない。
こうして地獄のドライブがスタートした。
途中でさまざまなアクシデントに会い、一人、また一人命を落としていく。
ドライブ中に6人の接点が少しづつ明らかになる。
犯人がどのようにして5人を特定し、どのようにして集めたのか、
まったくもって謎のままだ。手段は書かれているが無理がある。
ワゴン車は中型車という表記が途中であるが
トラックでなければバス(マイクロ)が考えられるが、
ドライブ中の表現で1.8メートルの高さや幅にぎりぎりとあり、
ハイエースなどが想定されているようにも思う。
なのに自由に広さを変えるワゴン車の構造にびっくりだし、
ワゴン車に仕掛けられた罠もでたらめに思う。
装置としては自作できるだろうが、
物語で示されるほどの改造なら、かなりな技術がいる。
絶対に脱出できない構造なんて無理がありすぎる。
度重なる衝撃で壊れないワゴン車にも驚きだ。
けもの道を走破する能力にも無理がある。装甲車かいなという感じだ。
タイミングよく作動するわなの存在で、
読者はすぐに気づくはずだ、犯人は集められた6人の中にいる。
最後に明かされる犯人の動機にも、まるで共感できない。
拡大自殺を企んだにしても無理がありすぎないか。
ミステリとしては失敗しているだろうし、
サスペンスとしても共感できない。
ましてホラーでもない。
せめて「王様ゲーム」くらいのレベルが欲しい。
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