南くんの恋人2006-04-19

内田春菊 文芸春秋 590円 

古本屋で買った本。
内田さんの作品としては初期のものになる。
初単行本化は1987年だということで、20年前となる。
この文庫は改訂版ということらしいが、
オリジナルとどこが違うのかはわからない。

1990年代半ばに武田真司と高橋由美子という、
当時のアイドルとして頂点に立つ二人の主演で
テレビドラマ化されたのを記憶している人も多いだろう。
僕も一・二度ドラマを見たが、原作にある現実的な性処理などが
ゴールデンタイムで、それもアイドル主演ということで省略されていたようで
作品事態の持つ意味がまったく理解できなかったように思う。

今回はじめて原作を読んだことで、
この作品が愛されていた理由に始めて気づいた次第。

高校生のカップルの性と愛を描いているのだが、
女の子は10分の一のサイズに突然なってしまったという設定だ。
そのことで二人の間にはセックスができなくなるという障害ができる。
キスも手をつないで歩くこともできないという異常な事態のなかで、
二人は事実を淡々と受けつつも、出来る範囲で愛し合っている。
南くんの性欲処理についても、美化することなく描ききっている。

本能的な性欲に制約を受けたその向こうに愛の形が浮かび上がるのだが、
そんな御伽噺のような愛は長続きするわけが無い。
人間としての愛を貫こうとするなら、
内田さんが用意した残酷な結末もまた必然であろう。

8点