明智左馬助の恋 ― 2007-05-20
加藤廣 日本経済新聞社 1900円
デビュー作「信長の棺」 「秀吉の枷」上巻 下巻に続く
本能寺3部作という位置づけでの出版。
「信長の棺」で遺体消失の謎と本能寺の謀反劇の真相を
元信長臣下で、後秀吉により「信長公記」の書き手として指名された、
大田牛一を探偵役にして解き明かした著者は
「秀吉の枷」では真の謀反劇の主の苦悩を描いて見せた。
第3作では、歴史上の謀反人側からの本能寺に迫って見せるのである。
とは言っても、「信長の棺」で手品の種は明かしてしまっているわけだから、
本作品で新しい物語の種を新たに作り出しているわけではない。
謀反劇を起こして行く光秀の心中を、
光秀の娘婿・光春の目線で追っているに留まる。
明智左馬助光春は馬術の名手として名高く
安土城や坂本での敗戦処理の潔く清廉な態度は
謡曲などでも語り継がれている武将である。
家老職という重職についていながら、山崎合戦でも、それ以前でも
その戦歴はいまひとつ良くわからない。
ただ「湖水渡り」で悲運の名将として伝えられる程度にしか知られていない。
そんな光春が語り手となる本作では、
光秀の娘「さと」への光春の愛情が大きな主題となっている。
「さと」は荒木村重に嫁し、村重の信長からの離反に際し離縁され、
光秀の元に戻って後、光春の元に嫁した人物だそうだ。
幸薄い女性といえようが、光春の柔らかな愛情で救われていると本書で語られる。
実際のところがどうだったのかなど、わからないが
この作品の光春の爽やかにして思慮に満ちた人物設定からなら、
著者の結論は納得できるものであるのだろう。
「信長の棺」で果たした光春の役回りが謎に満ちていたものに感じたが、
本作でもすっきりとしない。
本能寺に蠢いた公家・秀吉・光秀たちの欲は物語として自然な流れといえるが
秀吉による本能寺の策謀を知りながら、
ただ無策に過ごす明智主従の動きは判然としない。
その動きのなさが、この第3部が小説のできばえとしてはともかく
「信長の棺」の価値を貶めているような気がしてならない。
どうも、すっきりとしない読後感になってしまった。
単独の作品としても、本能寺の真相の処理が引っかかってしまう。
そうそう、ラスト近くで光秀が光春の策により、生き残る設定が繰り返されている。
次回作が天海、もしくは家康側から書き起こされることもありそうだ。
デビュー作「信長の棺」 「秀吉の枷」上巻 下巻に続く
本能寺3部作という位置づけでの出版。
「信長の棺」で遺体消失の謎と本能寺の謀反劇の真相を
元信長臣下で、後秀吉により「信長公記」の書き手として指名された、
大田牛一を探偵役にして解き明かした著者は
「秀吉の枷」では真の謀反劇の主の苦悩を描いて見せた。
第3作では、歴史上の謀反人側からの本能寺に迫って見せるのである。
とは言っても、「信長の棺」で手品の種は明かしてしまっているわけだから、
本作品で新しい物語の種を新たに作り出しているわけではない。
謀反劇を起こして行く光秀の心中を、
光秀の娘婿・光春の目線で追っているに留まる。
明智左馬助光春は馬術の名手として名高く
安土城や坂本での敗戦処理の潔く清廉な態度は
謡曲などでも語り継がれている武将である。
家老職という重職についていながら、山崎合戦でも、それ以前でも
その戦歴はいまひとつ良くわからない。
ただ「湖水渡り」で悲運の名将として伝えられる程度にしか知られていない。
そんな光春が語り手となる本作では、
光秀の娘「さと」への光春の愛情が大きな主題となっている。
「さと」は荒木村重に嫁し、村重の信長からの離反に際し離縁され、
光秀の元に戻って後、光春の元に嫁した人物だそうだ。
幸薄い女性といえようが、光春の柔らかな愛情で救われていると本書で語られる。
実際のところがどうだったのかなど、わからないが
この作品の光春の爽やかにして思慮に満ちた人物設定からなら、
著者の結論は納得できるものであるのだろう。
「信長の棺」で果たした光春の役回りが謎に満ちていたものに感じたが、
本作でもすっきりとしない。
本能寺に蠢いた公家・秀吉・光秀たちの欲は物語として自然な流れといえるが
秀吉による本能寺の策謀を知りながら、
ただ無策に過ごす明智主従の動きは判然としない。
その動きのなさが、この第3部が小説のできばえとしてはともかく
「信長の棺」の価値を貶めているような気がしてならない。
どうも、すっきりとしない読後感になってしまった。
単独の作品としても、本能寺の真相の処理が引っかかってしまう。
そうそう、ラスト近くで光秀が光春の策により、生き残る設定が繰り返されている。
次回作が天海、もしくは家康側から書き起こされることもありそうだ。
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