龍時 01-022009-12-13

 野沢尚   文春文庫   ¥620

野沢 尚は1960年生まれ。2004年に自死した。テレビドラマの脚本家として活躍していた。自死により未完となり他の人が完成させた今年から放映中のNHK大河ドラマ『坂之上の雲』の脚本も彼の仕事だ。小説家としては、映画脚本も手がけた「V.マドンナ大戦争」でデビューし、その後も『マリリンに会いたい』など、同様の作品がある。乱歩賞を受賞するなどしていて、今後の活躍も期待されていただけに自死されたのは惜しい。『龍時』シリーズはめったにない競技者感覚に溢れたサッカー小説だけに、続きが読めないというのは残念なことだ。

『龍時』は本格的サッカー小説と銘打たれるにふさわしく、Jリーガーから多くの示唆を受けるなど、サッカーという競技の奥深さがてんこ盛りに入っている。その臨場感ゆえにサッカープレイヤーやファンに愛され、著者の死以降もコミックが連載されている。主人公・志野リュウジの更なる活躍が読めないのが残念だ。

大まかなストーリーとしては、トップ下にいてドリブラーでもある個の技術には優れているものの、組織力を重視するあまりこの力を重視しない日本サッカーと感じ、限界を感じているリュウジが、スペインのU19代表との親善試合に出場し、殺気を感じるほどのサッカーに憧れ、単身スペインに渡り、スペインリーグで成り上がっていく成長物語と位置づけられるのではないかと思う。

『龍時 01-02』は親善試合を見たスペインチームから、商機もあるという理由から招聘を受けたリュウジが、スペインへ旅立ち下部リーグから選手生活を始める。文化的摩擦を感じながらも、次第に成長し、スーパーサブとして活躍、やがて一部リーグから声が掛り、注目を集めていくというストーリー。日本を捨て、スペイン国籍すら渇望する様に決意を見る。

続刊「龍時 02-03」では、さらに名門チームへとレンタル移籍し、次第にゲームを動かすスーパーサブとして信頼を勝ち取り注目される選手となっていく様を描く。「龍時 03-04」ではオリンピック代表に召集されたリュウジを描いている。

作品全体を通して、監督と選手間の葛藤などもきめ細かく書かれ、またピッチ内の選手心理も明確で、スペイン人にとってのサッカーという意味まで詳しく語られている。物語を読むことで、自分自身がプレイヤーの視点にあるかの錯覚すら覚える。また勇敢な挑戦を試みるリュウジの家族関係なども読み所となっている。

サッカーを題材にした、優れた青春小説・成長物語になっていると思う。返す返すも著者の自死が悔やまれる。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://kumaneko.asablo.jp/blog/2009/12/13/4756155/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。