テロリストのパラソル2006-04-24

藤原伊織 講談社  ¥649  

史上初!乱歩賞・直木賞W受賞 ハードボイルド
 ミステリなら江戸川乱歩賞、大衆小説なら直木賞は最高峰の文学賞といえる。一人の作家がその両賞を受けるというのは桐野夏生や東野圭吾など珍しいことではないが、ひとつの作品で両賞を受賞したのは藤原伊織が空前にして絶後なのである。出版事情などの状況もあったのかもしれない。が、確かに両賞を受賞するに相応しい充実した小説である。
 主人公は学生闘争末期の1971年に起きた爆弾事件に関係し、警察から姿を隠しひっそりと都会の雑踏に暮らす中年のアルコール中毒者=島村という男である。
物語は10月の新宿中央公園で幕を開ける。犠牲者が多数出る爆発事件がおきる。事件が起きたとき島村は現場近くにいた。昔の事件で警察に追われている島村は姿を隠そうとする。姿を隠す直前に島村は一人の女性に出会う。彼女は20年前に一緒に暮らした女性=優子の娘だった。そして島村は意外な事実を知ることになる。優子は事件により死亡していた。そして20年前の爆弾事件で行動を共にしていた友人=桑野も爆発に巻き込まれて命を落としていた。20年前に学生運動を共に戦った仲間二人の死の謎に島村は挑み始める。大都市東京の暗部であるホームレスや姿を変化させる暴力団・合法ドラッグの蔓延などを織り込みつつ、20年前に起きた事件の人間関係がパズルのように入り組んで事件は意外な結末を迎える。
 スピーディーなストーリー、個性的な登場人物、意外な結末と読む者を決して厭きさせない完成度には脱帽だ。

ルート2252006-04-24

藤野千夜 新潮社 514円

子供向けに書かれた、所謂YA本。
玉石混交なYA本の中では、異例なほど完成度が高く、
大人が読んでも充分に感情移入できる。
中村義洋監督(僕は知らない人)で映画化もされているらしい。

物語は中学2年と1年の姉弟が、
今いる世界からちょっとだけずれた世界に迷い込むというお話です。
SFでいうところの並行世界ものです。
SFでは、はちゃめちゃなことが起きていて、
主人公は獅子粉塵な活躍をする。とか、
絶望感につぶされ敗れしものとなるなどという激変形が多いのだけれど、
本作ではほんの少し違うだけでしかない。
喧嘩別れしたともだちと和解ができていたり、
昨日会ったはずの幼馴染と顔をあわせていなかったり、
巨人の高橋が太めだったりするくらいで。

そもそもの発端は、夕飯時になっても帰ってこない弟を、
母の言いつけで捜しに行く。町中を探しても見つからない弟を見つけたのは
大きな国道の向こう側。
いじめらしいものにあっている弟と、ぶらりと還ろうとしたら、
知らない街になっていた。大きな国道は無く、大きな川で。。。
途中で弟のテレかで電話をかけたら叱られる始末。
やっとの思いで帰ってきたら、家から母がいなくなっている。
ちょっと用事で出かけたのかなと思っていたのに、
次の日にも、また次の日も還ってこない。
分かったことは弟のテレカを使ってかけたときだけ
母と電話で話すことができるということ。

そういう異常事態のなかで、姉弟の暮らしが始まるのだけれど、
結末まで破綻無く物語が進み、
結果的には救われなかったけれど、
読むものには安心感のある結末が用意されていて、
俄小説家には無い著者の底力が感じられる。

7点