史記 武帝記 一2009-08-08

北方謙三   角川春樹事務所   1600円

「史記)は、司馬遷によって編まれた中国の歴史書で、伝説上の五帝の一人黄帝から前漢の武帝まででを著している。中国初の歴史書で正史の第一とされている。以降、歴史書は「史記」のスタイルを踏襲している。
その「史記」をタイトルとする本書だが、サブタイトルにあるように前漢7代皇帝武帝の時代を描いている。武帝の時代は版図が最大となった時期であり、勢力は北は外蒙古・南はベトナム・東は朝鮮・西は敦煌まで及んでいる。この帝の登場以前は、漢はしばしば匈奴に敗れ外交上低姿勢で対応していたが、武帝は衛青とその甥の霍去病を将軍として登用し積極的軍事行動に打って出、匈奴を含めた周辺諸国を服従させ漢の全盛期を生み出した。西域に張騫を派遣し交易を活発にさせたことでも知られる。
武帝の治世は前巻最盛期を迎えたさせたことで評価される一方、一種の恐怖政治を行ったともされ評価が分かれている。諸王の力を弱め中央集権を推し進めたとも言え、政治的には独裁食が強かったといえるのだろう。
北方版・武帝記は武帝と衛青に霍去病、そして張騫、匈奴の軍臣単于やその子・於単、弟の伊稚斜などを中心に物語が展開されていく。北方謙三らしい軍人たちの表現が心地よい。第一巻では、衛青が武帝に抜擢され将軍に上る家庭が物語を興味深くさせている。衛青の身分は低かったが、姉の衛子夫が武帝の寵姫であり、騎射の名手であったことなどから、武帝から引き立てられていく。兵から将軍に上りついていく過程では、他の来た方作品の登場人物のように調練に明け暮れている。
史記や漢書を良く噛み砕いていて引き込まれるような作品になっている。つい先日第2巻が発売になった。すでに購入しているが、一巻からの物語の展開をどう創り出していくのか、今からわくわくしている。

サッカーボーイズ2009-08-08

はらだみずき   角川書店   514円

少年を主人公にした成長物語だ。

 スポーツを題材にした小説なら「バッテリー」や「一瞬の風になれ」などが最近のヒット作だ。「一瞬の風になれ」は、サッカーに挫折し目的を見失っていた少年が、幼馴染との再会で陸上に目覚めていく話であり、なかなかに興味深く読めたが、高校生ということでとっても甘い恋なども絡んでいてスポーツマンの心象を書いているように見せはしても、どちらかといえば青春小説の王道を走っているものであった。とはいえ、本来個人競技の陸上競技でも400メーターリレーを扱っていた。そこに強烈な仲間意識がある。仲間であることを感じ取る瞬間の情景が、たった十秒の走りながらのバトンの受け渡しに濃縮されている。その重病の記述が実にマンガチックで面白かった。
 「バッテリー」のほうは、主人公として設定されている原田巧が、あまりの超人過ぎ、リアル間があり祖でないところが弱かった。12歳が14歳と戦う。それがどちらも天才という設定であったなら、12歳は14歳に勝てる道理は無い。天才と普通の人なら12歳が勝ったとしてもおかしくはないが、天才同志ならもっとも成長する時期に入っている中学生の年の差は埋めがたい。その差を無視した物語だった故、にいい作品だと思いながらも反発心があった。

 「サッカーボーイズ」にはそれがない。当たり前だと信じている子供の世界に安心感がある。もちろん大人と子供の戦いなども含まれていて、その中では大人が振り回されたりもしているが、スポーツから離れた大人には技術はあれど持久力や瞬発力は落ちてしまっているから、運動量がものをいうサッカーという競技であれば、野球のようなものとは異なる結果も生もう。と、いうことで競技をサッカーにした点で、野球とは異なる現実感が旺盛になっていてとても自然に読むことができた。
「サッカーボーイズ」は、地方都市(設定を見る限り静岡のチームか?)で活動するジュニアサッカークラブが舞台。主人公に据えられるのは武井遼介。小学校中学年から高学年のチームに入り活躍してきたという設定だ。ポジションはトップ下。司令塔としてラストパスを出したり、自らシュートするポジションだ。背番号でいうと10番といえばわかるか。5年生の時には同級の星川と伴に地域選抜チームに抜擢され、とーなめんんとで準優勝しさえている。期待の小学生フットボーラーだ。
いよいよ最終学年になったとき、先輩から時期キャプテンとして指名されもし、得意の絶頂にあったが、新チームのキャプテンは投票の結果星川に、試合では監督から叱られてばかり、ポジションも強豪キッカーズから移籍してきた青山巧にとって代えられ簿ランチに下げられ挫折気味。監督の叱る声は、星川にも伝播し、星川は孤立していく。チーム自体の雰囲気も悪い。それでもサッカーが好きでたまらない遼介はれんん州でも試合でも献身的に動き続けている。
さて、そういう状況のチームに新コーチがやってきた。名を小暮という。小暮は監督とは異なる目で遼介を評価している。コーチの楽しめばよいんだという声に惹かれていく。そんななか監督が家庭の事情で小暮に代わることとなった。そこから小暮の指導方針によりサッカーの楽しさを再発見し快進撃をすることになる。そして小学生としての最後の大会で、因縁のチームとの再選が待っていた。さらに大会では幼馴染の琢磨との再会を果す。サッカーというケームと、温かい人の関係を通して成長していく少年たちが生き生きと躍動する。息遣いまで聞こえそうなサッカーが見えてくる。