笑う招き猫2009-10-04

山本幸久   集英社   552円

 お笑いブームなんだそうだ。
ぼくが生まれた頃もお笑いいブームだったと記憶しているが、今ほどにはテレビを賑わしていたような記憶が無い。その後、バラエティー番組が勃興し、『全員集合』だとか『ゲバゲバ90分』など伝説となった番組も数多いが、僕自身はどっちかというと興味がなく、冷ややかに見ていたような気がする。
で、今のお笑いブームというのを見ていても、もひとつぴんと来ないのが本当のところ。直接的な肉体へのダメージを競わせたり、さして面白くも無い自虐ネタを下品な乗りで面白おかしく演出しているだけといった感がしてならない。女芸人が動物たちと競争するなど、絵としては面白いのかもしれないが、製作者の品位を疑いたくなる。
下品さも隙間を埋めるものであるならば、上質の笑いの中のアクセントとして置かれているというのであれば、それならばよい。が、どうも現実は下品さを競い合うようにして作られているのだから始末が悪い。
作り手に信念が無い。演者に技量が伴わない。視聴者に芸への造詣が無い。ないないづくしであるなら仕方ないことなのだろうな。でも、優れた笑いを失うということは怖いことだと思う。

で、『笑う招き猫』というのは、現代のお笑いブームを反映した作品ということになる。ただ、非常に好感が持てるのは、時流の波に乗りたやすく話芸のプロであることを辞め、際物として走りがちな芸人たちを主人公にしていない点にある。

アカコは15センチと小柄でちょっぴり太め。だけど敏捷。
ヒトミは180センチにならんとする大女で自転車に乗ってどこにでも行く体力はあるがちょっと運動音痴な美女(らしい)。
大学で知り合い、ちょっとしたきっかけがもとでお笑いに目覚めた二人。結構裕福な家庭に生きているアカコと、
いったんはOLになったものの現実に傷つき、
笑いの快感を追い求める超貧乏なヒトミ。
男と並ぶ幸せより、なにから何まで対照的な個性的な女二人で目指すお笑いの星。
けったいな芸人の世界と複雑な芸能界事情を垣間見せつつ、熱血おわらいものがたりになっている。
こういう芸人がたくさんいればお笑いの世界も少しは救われるのにね。

小説スバル新人賞を受賞しているということだ。

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