天主信長2013-10-08

表 我こそ天下なり
裏 天を望むなかれ
上田秀人   講談社   各724円(別)

「表」は2010年に単行本になった作品。
「裏」は文庫化に際し書き下ろされた作品となる。

上田秀人は1969年生まれ。歯科医師業を営みながら小説を執筆しているという。
彼の作品は本作で初めて読むことになる。
主として時代小説といわれる分野で活躍する。

本能寺の変を、歴史的事実を独自の解釈により構成しなおし、
信長という特異な存在が、なぜ滅びることになったかを、
通説を反転させ物語っている。
そのもって行きように工夫があり読みごたえを感じさせる。

本能寺の変は、それこそいろいろと推理されてきた。
「女信長」では、信長=お長への愛のために光秀が演じたとし、
「信長の棺」では、光秀と秀吉の黙契による事変とする。
他にもさまざまな解釈による、多様な物語が語られる。
闇に葬られた事実があるからこそ、
現代視点から眺めれば、「変」は多くの疑問を感じさせ、想像の入る余地がある。
だから、様々に推理し、多様な物語を生む素地となっている。

さて「表」だが、舞台は比叡山焼き討ちから始まる。
信長が対宗教戦に殲滅戦を行うようになったころから書き進められる。
安土城の立地の意味、天主閣の意義、半兵衛の野心、
もろもろへの新解釈を随所にスパイスとぢて用いながら、
最大の謎、本能寺の謎を解釈する。

解釈そのものは、信長主導説を採る。
そこに至るまでの光秀の立ち位置と秀吉の違い、
中でも官兵衛という謀将の用い方が読みどころとなる。

「裏」のほうは、黒田官兵衛の視点で書かれる。
小寺氏の被官にあった官兵衛は、三好氏の将軍義輝殺害を知る。
播磨で事の成り行きを見守るしかない立場だったところから起こされる。

逼塞するような状況の官兵衛だが、中央の動きは冷静に眺めている。
信長の台頭を見込み、織田への接近を考える。
この辺りは一般に知られた官兵衛の事績を踏襲していく。
半兵衛と官兵衛、秀吉の関係も、従来と大きくは変わらない。

変わるのは、有岡幽閉のあとである。
恨みを抱いたまま、官兵衛は「表」で示された信長の計略を見破り、
秀吉を取り込み、信長の計略を無効にする大勝負に出る。

「表」と「裏」で微妙に景色が違うが、それは視点の違いということなのだろう。

信長、光秀、秀吉、官兵衛、半兵衛の欲望を描く本作品は、
一つの本能寺ミステリの回答として面白い。
光秀の扱いは、真保氏の「覇王の番人」と対極になっている。
比べてみるのも楽しい。

はいら、はじける2013-10-08


ブログ休止中も、週一回の犬孝行は続けていた。
でも、最近は遊べる相手もいないから、
「そらん」も「はいら」もだらだらするだけだった。

で、先日も同じことになるのかと思っていたら、
なんと、『はいら』を相手にする子がいた。
びれにーずの「ユウ」君
やる気のない「はいら」を誘う。
なかなか乗らないでいたけれど、

スイッチが入る。
自分からも遊べと言い出した。


そのころの「そらん」と愛梨さん。
まったりとお散歩
どりゃ~
はいら爆走。
さすがにびれにーずより早いがな
楽しげに見えたのか、「愛梨」さんも参戦。

でも、「はいら」すぐに電池切れ。
ついに狩られました。

たくさん遊んだから、このあとはもう動かなくなってしまった「はいら」です。

初めてであったびれさんに好かれてよかったな。

「そらん」もこの2頭は気にいったようです。
また逢えたらいいね。

西野に世界は無理だろう2013-10-08

紺野理々 泰文堂(リンダブックス)   650円

第1回「日本エンタメ小説大賞」優秀賞に撰ばれた
『トロ箱から、ヒーローは生まれない。』を改題して出版したもの。

『ウィキペディア』によれば「日本エンタメ小説大賞」は、
日本エンタメ小説大賞実行委員会(リンダパブリッシャーズなど)が
2012年より主催する公募の新人文学賞。
応募作品のジャンルは問わないが
「映画の原作になること」を意識したエンタテインメント性の高い作品を求め、
その時代に活躍している映画プロデューサーが「審査委員長」として審査にあたる。
第1回は石田雄治氏が務めた。

それぞれの企業の戦略なので仕方ないのだろうが、
文学賞の乱立には、いい加減整理してよ思う。
どんどん作家を輩出していくが、残れる作家がどれほどいるのかと思ってしまう。
どの賞であれ、入選作は表面的には面白いのは確かだが、
奥行きのない平面的な小粒なものが多いし、
売れることを意識しているのか、パターン化しているように思えてならない。
読者を軽視しすぎた安易な態度で出版しているのじゃないかと思ってしまう。
まあ、デビュー後に化けていく作家もいるから、
現状をすべて否定するつもりはないけれど、
もう少し物語を、読まれるものとの意識で、出版してほしい。
薄っぺらなことと、読みやすいものとは同義じゃない。

この作品は、まさしく薄っぺらなことと読みやすさを混同している。
そう感じている。
ロッキー・ニート版+インストール+さまざまなスパイス
確かに映画にしたらそれなりの作品にはなるよね。
ジャニーズあたりのイケメンを主演に、
さわやか感動系に撮ればヒットしそう。
映画なら格闘シーンを長めに撮れば、奥行きも出そうだ。

でも、小説なんだ。
もっともっとリアリティーを持たせないと。
共感も感動もない。
小説はくだらないものであって当然だけど、
ありそうなレベルでの書き込みはしてもらいたい。

就職戦線に敗れ、傷つき、引きこもりになっている青年が、
ネットゲームでアドレスを抜かれさらされる。
同じように引きこもっている14歳の少女が、
さらされたものを見て、からかい半分に「ヒーローになれ」とメールする。
ボクシングをするよう勧めたのだ。
素直に信じた青年は、走りはじめ、
腕立てさえできない、腹筋すらできない、
わずか2キロも走れない状況から、
トレーニングを始め、ジムに通いだし、
ごく短期間でプロテストに合格し、
ボクサーとしてデビューし一度は敗戦を味わうも、
挫折らしい挫折もなく、順調に勝利を重ね世界チャンピオンになる。
そういうサクセスストーリーに仕立て上げている。

ロッキーのテーマ、のようなもの。

目新しさは、一度も顔を合わせない23歳と14歳が、
ネットの中で、互いを暗示に掛け合うことだけ。
たった4年で世界に駆け上がる。
そういう奇跡のものがたりに仕立て上げているが、
そのために払った汗の量は、物語でリアルさを持たない。
頭の中で考えただけのものがたりにとどまっている。

書きようによっては、もっと興奮する小説に仕立て上げられるのに、
とても残念な作品になっている。
百田氏の「ボックス」までを求めようとは思わないが、
リアルを感じさせるまで書き換えてから出版するべきと思う。

駄作である。でも、読み心地は悪くない。
それが救い。

本読みベテランは、
未来の大作家探しをしようとしている人でなければ、
手にしないが吉。