卯月の雪のレター・レター ― 2021-02-06
相沢沙呼 創元推理文庫
マツリカ・シリーズに出会ってより気になる作家になっている。
Mediumが「このミス」一位を獲得するなど人気作家として盤石。
この作品は2013年に単行本化され2016年に文庫が出版されている。
この前書店で見かけて読むことにした。
相沢作品はマツリカ・シリーズ3作品と酉乃初シリーズ2作を読んでいる。
マツリカのキャラクターが強烈で、その妖しさに恋してしまい、
マジョルカを読了するや、すぐさま書店に出向きをマハリタ探すこととなった。
2-3店巡りなかったため、めったにしない取り寄せをしてしまった。
早く続きを知りたい。そう思うほどになった。
続編を待ちきれず続けて読んだのが「午前零時のサンドリヨン」だった。
これも十分面白い作品ではあったが、
マツリカに比べて酉乃初は、あまりに健全で、惚れるまでには至らなかった。
読む順番が逆だったら、相沢作品はそこで興味を失ってしまったように思う。
相沢作品はミステリ色の強い上記作品のほか、
未読であるが、青春小説色が強いと言われる「小説の神様」などもある。
そのように言われているのなら、さしずめ「卯月の雪のレター・レター」が
その分岐点に位置するのだろうなと思える。
惹句では青春ミステリと銘打つが、
読んでみてミステリが重きをなさず、心理に重きを置いていると思えた。
「卯月の雪のレター・レター」は5短編が収録される。
登場する人物は10代から二十歳を少し過ぎたあたりの少女、または女性であり、
少しの不安定な思いに揺れはするが、まっとうな人たちである。
「小生意気りゲット」は、距離を置く妹に姉としての寂しさを感じるお話。
なぜ距離を置かれているのか。その真実が見えたときの
ああこんな家族ならいいよなと思わせる。
「こそどろストレイ」は雪の日に土蔵で壺がなくなる。
密室から壺はなぜ消えたか。その謎を追う少女たち。
その謎が解かれるとき、同時に家族間の関係を解きほぐす。
「チョコレートに、踊る指」病室に横たわる事故で失明した少女を見舞うわたし。
わたしは少女が好きでたまらないが、ある負い目に悩む。
決意して打ち明けたとき、少女はとっくに気づいていたと知る。
そのそれぞれの感情は優しい。
「狼少女の帰還」教育実習で母校に。他とは違う自分が子どもたちを前にして思い出される。
子どもたちの中の孤独を思う時、自らの苦しさに気づき、
本物の言葉を見つける。題こそ秀逸さの塊。
「卯月の雪のレター・レター」死者からのラブレター。
活発な姉やいとこの可愛さにへこまされる。
違い過ぎる者たちへの屈折した劣等感が、ラブレターの謎を解くうちに、
違うことこそが当たり前だと気づいていくことになる。
自分の持つ劣等感が、別な劣等感の持ち主にすればたわいないことである。
いずれの人物も、かつて感じた気持ちを思い起こさせる点で秀逸。
だが、マツリカの魅力には及ばない。
マツリカ・シリーズに出会ってより気になる作家になっている。
Mediumが「このミス」一位を獲得するなど人気作家として盤石。
この作品は2013年に単行本化され2016年に文庫が出版されている。
この前書店で見かけて読むことにした。
相沢作品はマツリカ・シリーズ3作品と酉乃初シリーズ2作を読んでいる。
マツリカのキャラクターが強烈で、その妖しさに恋してしまい、
マジョルカを読了するや、すぐさま書店に出向きをマハリタ探すこととなった。
2-3店巡りなかったため、めったにしない取り寄せをしてしまった。
早く続きを知りたい。そう思うほどになった。
続編を待ちきれず続けて読んだのが「午前零時のサンドリヨン」だった。
これも十分面白い作品ではあったが、
マツリカに比べて酉乃初は、あまりに健全で、惚れるまでには至らなかった。
読む順番が逆だったら、相沢作品はそこで興味を失ってしまったように思う。
相沢作品はミステリ色の強い上記作品のほか、
未読であるが、青春小説色が強いと言われる「小説の神様」などもある。
そのように言われているのなら、さしずめ「卯月の雪のレター・レター」が
その分岐点に位置するのだろうなと思える。
惹句では青春ミステリと銘打つが、
読んでみてミステリが重きをなさず、心理に重きを置いていると思えた。
「卯月の雪のレター・レター」は5短編が収録される。
登場する人物は10代から二十歳を少し過ぎたあたりの少女、または女性であり、
少しの不安定な思いに揺れはするが、まっとうな人たちである。
「小生意気りゲット」は、距離を置く妹に姉としての寂しさを感じるお話。
なぜ距離を置かれているのか。その真実が見えたときの
ああこんな家族ならいいよなと思わせる。
「こそどろストレイ」は雪の日に土蔵で壺がなくなる。
密室から壺はなぜ消えたか。その謎を追う少女たち。
その謎が解かれるとき、同時に家族間の関係を解きほぐす。
「チョコレートに、踊る指」病室に横たわる事故で失明した少女を見舞うわたし。
わたしは少女が好きでたまらないが、ある負い目に悩む。
決意して打ち明けたとき、少女はとっくに気づいていたと知る。
そのそれぞれの感情は優しい。
「狼少女の帰還」教育実習で母校に。他とは違う自分が子どもたちを前にして思い出される。
子どもたちの中の孤独を思う時、自らの苦しさに気づき、
本物の言葉を見つける。題こそ秀逸さの塊。
「卯月の雪のレター・レター」死者からのラブレター。
活発な姉やいとこの可愛さにへこまされる。
違い過ぎる者たちへの屈折した劣等感が、ラブレターの謎を解くうちに、
違うことこそが当たり前だと気づいていくことになる。
自分の持つ劣等感が、別な劣等感の持ち主にすればたわいないことである。
いずれの人物も、かつて感じた気持ちを思い起こさせる点で秀逸。
だが、マツリカの魅力には及ばない。
ナキメサマ ― 2021-02-27
阿泉来堂
第40回横溝正史ミステリー&ホラー大賞読者賞受賞作ということだ。
元は「くじりなきめ」というタイトルだったものを改題の上、
加筆修正し文庫化したものだ。
帯に「書店員さん驚愕」とあって、何じゃいなと思い買ってみた。
裏には作品紹介に大どんでん返しの最強ホラーなどとされている。
まあいろいろと小細工されていて、
それらの惹句が、かけ離れたものとは思わないが、
さして真新しい手法ともいえず、普通だろと思う。
恐怖感も、さまで高くない。
映像化したらチープなものになりそうな気がする。
そもそも叙述トリック的趣向は映画化には向かないかも。
叙述トリック的と書いたのには
この物語が二つの時間軸に分かれ書かれていて、
その二つの時間が同時進行のように錯覚させる書き方であるからだ。
だけれども比較的序盤で、とても微妙ではあるが齟齬を現していて、
時間にずれがあるとわからせてしまっている。
叙述トリック的に書かねばならなかったのは、
最後のどんでん返しのためであり、まあ,あざとい。
高校の初恋相手を探してと弥生というルームメイトが尋ねてきた。
倉坂尚人は彼女とともに初恋相手が暮らしていた村に向かう。
おりしも23年に一度の秘祭が行われる村に、
弥生と尚人は逗留することとなる。
初恋の人は巫女としてのみそぎのため合わせられないのだという。
そこに雑誌記者と、小説家が加わり、
不穏な空気が少しずつ現れ来る。
「ナキメサマの儀式」それは悍ましい儀式であった。
少しの狂いがとてつもない怪物を生み出すことになる。
狂いを修正するはずの村人たちの浅慮が、さらなる混とんを生み出す。
尚人は初恋の人を救い出せるのかというように読むと裏切られる。
そんな名は存在していないのだという落ちである。
儀式の業者だけは、しっかり恐ろしくは描けているが、
全体の進行は、あららという感じ。
次に読んだ「隣のずこずこ」のほうが、僕にはあっている。
この作家には期待値はある。
変な小細工ナシの直球勝負をしている作品に出合えれば、
また違った感想があったと思う。
第40回横溝正史ミステリー&ホラー大賞読者賞受賞作ということだ。
元は「くじりなきめ」というタイトルだったものを改題の上、
加筆修正し文庫化したものだ。
帯に「書店員さん驚愕」とあって、何じゃいなと思い買ってみた。
裏には作品紹介に大どんでん返しの最強ホラーなどとされている。
まあいろいろと小細工されていて、
それらの惹句が、かけ離れたものとは思わないが、
さして真新しい手法ともいえず、普通だろと思う。
恐怖感も、さまで高くない。
映像化したらチープなものになりそうな気がする。
そもそも叙述トリック的趣向は映画化には向かないかも。
叙述トリック的と書いたのには
この物語が二つの時間軸に分かれ書かれていて、
その二つの時間が同時進行のように錯覚させる書き方であるからだ。
だけれども比較的序盤で、とても微妙ではあるが齟齬を現していて、
時間にずれがあるとわからせてしまっている。
叙述トリック的に書かねばならなかったのは、
最後のどんでん返しのためであり、まあ,あざとい。
高校の初恋相手を探してと弥生というルームメイトが尋ねてきた。
倉坂尚人は彼女とともに初恋相手が暮らしていた村に向かう。
おりしも23年に一度の秘祭が行われる村に、
弥生と尚人は逗留することとなる。
初恋の人は巫女としてのみそぎのため合わせられないのだという。
そこに雑誌記者と、小説家が加わり、
不穏な空気が少しずつ現れ来る。
「ナキメサマの儀式」それは悍ましい儀式であった。
少しの狂いがとてつもない怪物を生み出すことになる。
狂いを修正するはずの村人たちの浅慮が、さらなる混とんを生み出す。
尚人は初恋の人を救い出せるのかというように読むと裏切られる。
そんな名は存在していないのだという落ちである。
儀式の業者だけは、しっかり恐ろしくは描けているが、
全体の進行は、あららという感じ。
次に読んだ「隣のずこずこ」のほうが、僕にはあっている。
この作家には期待値はある。
変な小細工ナシの直球勝負をしている作品に出合えれば、
また違った感想があったと思う。
隣のずこずこ ― 2021-02-28
柿村将彦
日本ファンタジーノベル大賞2017受賞作品。
ファンタジーっぽくて、SFっぽくて、ホラーかなと思わせる。
さて不思議な魅力に満ちているものよ。
感覚的には常川光太郎ばりに惹かれます。
語り部の住谷はじめの乾いた感じがいい。
抗いも淡々としていて、受け入れながらもあきらめるわけではない。
この恐ろしい物語の語り部の設定が絶妙すぎる。
通い帳に一生とクリ、信楽焼の狸が制服姿の少女の後をついて歩く
そんな表紙とタイトルが気になった。
民話「六分殺し」と似通っていると森見登美彦氏が解説に書いている。
なるほど民話にありそうな語りではある。
いつの時代の日本かははっきりしないが、
3-40年前ならあったかもしれない地方都市が舞台になる。
一人の若い女の旅人が訪れ、村に置いてくれたら金をくれるという。
そのうえ舞を舞い、野良を手伝う。村人は彼女を引き留める。
だが、女は去ってしまう。
そしてのち一匹の狸が村にやってきて
住民を残らず飲み込み、火を吹いて村を焼け野原にした。
そのような「権三郎たぬき」の昔話が残るところに、
一人の女性が狸を引き連れやってきた。女性が言うには
「一月後には村を壊します。あなたたちは丸のみです」
女性=あかりから話を聞いた住民たちは、
疑うこともなく終末を受け入れ、残る1か月を思い思いに過ごす。
ある者はおいしいものを喰い尽くそうとし、
ある者は想い人に襲い掛かる。
またある者は生きる意味を失い予定日を待たずに自ら呑まれる。
が、ごく少数のものが運命を受け入れることなく抵抗を始める。
語り部の友人恵美は放火を行い、住民に戦いを促そうとし、
恵美の決意を知った語り部のはじめはあかりの殺害を実行する。
その結果は。
木乃伊取りが木乃伊になるあたりが、底知れず恐ろしいのだ。
それでひょうげた語り口に終始する。
どのようにも読めるところが、さらに恐ろしい。
日本ファンタジーノベル大賞2017受賞作品。
ファンタジーっぽくて、SFっぽくて、ホラーかなと思わせる。
さて不思議な魅力に満ちているものよ。
感覚的には常川光太郎ばりに惹かれます。
語り部の住谷はじめの乾いた感じがいい。
抗いも淡々としていて、受け入れながらもあきらめるわけではない。
この恐ろしい物語の語り部の設定が絶妙すぎる。
通い帳に一生とクリ、信楽焼の狸が制服姿の少女の後をついて歩く
そんな表紙とタイトルが気になった。
民話「六分殺し」と似通っていると森見登美彦氏が解説に書いている。
なるほど民話にありそうな語りではある。
いつの時代の日本かははっきりしないが、
3-40年前ならあったかもしれない地方都市が舞台になる。
一人の若い女の旅人が訪れ、村に置いてくれたら金をくれるという。
そのうえ舞を舞い、野良を手伝う。村人は彼女を引き留める。
だが、女は去ってしまう。
そしてのち一匹の狸が村にやってきて
住民を残らず飲み込み、火を吹いて村を焼け野原にした。
そのような「権三郎たぬき」の昔話が残るところに、
一人の女性が狸を引き連れやってきた。女性が言うには
「一月後には村を壊します。あなたたちは丸のみです」
女性=あかりから話を聞いた住民たちは、
疑うこともなく終末を受け入れ、残る1か月を思い思いに過ごす。
ある者はおいしいものを喰い尽くそうとし、
ある者は想い人に襲い掛かる。
またある者は生きる意味を失い予定日を待たずに自ら呑まれる。
が、ごく少数のものが運命を受け入れることなく抵抗を始める。
語り部の友人恵美は放火を行い、住民に戦いを促そうとし、
恵美の決意を知った語り部のはじめはあかりの殺害を実行する。
その結果は。
木乃伊取りが木乃伊になるあたりが、底知れず恐ろしいのだ。
それでひょうげた語り口に終始する。
どのようにも読めるところが、さらに恐ろしい。
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