密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック2022-06-30

鴨崎暖炉

このミス2021年度文庫グランプリ受賞作品

このミス大賞新人作家の登竜門ではあるが、受賞作品は完成度の高いものが多い。
で、結構手に取る。本作品も結構楽しめた。
過去の密室トリックを系統だて定義しているあたりが興味深いが、
犯行の動機や犯人像には飛躍がありすぎてついていけないし、
また、本作中の事件のトリックについては机上の空論のような気がします。
それらの部分は会話のテンポというか、著者のセンスでカバーされています。
まあ、先行する密室トリックもほとんどが現実には実現性が低いので
たいして問題とはならないのでしょうが。

物語の設定は、事件現場に対して不在照明がされれば
いかなる動機を持っていようと見に問えないのと同じで、
いかなる動機を持つ者がいようと、密室状況の下で事件があった時、
その密室のからくりが解き明かされなければ、
その者の犯行を問えないという判決がなされたとしている。
そのため密室事件が多発している日本が舞台。

人里離れた場所にある、かつての人気ミステリ作家の別荘雪白館。
現在はホテルとして営業している。
このホテルの売りはオーナーの料理と作家の密室を使った未解の謎。
そのホテルを舞台に連続して起きる密室殺人。
犯人は誰。閉ざされた空間での事件であり、
そこに居合わせた12人の誰が犯人なのか。

探偵役が多いうえに、探偵役と犯人と黒幕が一緒だとか、
探偵役の一一人は早々に殺されるなど、手が込んでいる。
ノックスの十戒とモーセの十戒を並べていたり、
他の作品群をさりげなく引用したりと小ネタも多彩。
主要登場人物のキャラもたっているし、会話も軽妙。
液体窒素を用いたトリックなどは頭でっかちな気がするが、
全体としてよく考え抜かれた印象がある。
考え過ぎが瑕疵と思うのだが、ま、これもアリか。