車上生活犬2005-10-04

運転席は僕のもの
「ごお」は生涯を通じて8万キロもの旅をした。
とにかくクルマに乗りたがった。
家の周りを普通の散歩に行こうとしても、
クルマの周りを一廻り、視線はずっとドアを見上げている。
『どっか行こうよ』とアピールする。
行った先でも僕が飯を食べている間。
           他の用事をしている間
外につないで待たせれば泣き叫ぶ『ごお』が
クルマでの待機だと4時間でも6時間でも気長に静かに待っている。
『ごお』との別れとなる日も、
医者に連れて行くためドアを開けたら、勇んで乗り込んだ。

そんな車上生活犬になった『ごお』は
水泳とおなじで、最初は、踏ん張って乗るのを拒否していた。
また、クルマ酔いがひどく20分もすると泡を吹いたり、吐くなどしていた。
だけれど『ボス』ちゃんのところを訪ねたり、
大好きになった川遊びに出向いたり、山遊びに連れて行くうち、
クルマに乗るのはしんどくて嫌な顔をするものの、
自ら進んで乗るようになった。当時のクルマはパジェロだったのだが、
前席の後ろで小さく丸まって、我慢していたことを思い出す。
そんなことを何度も繰り返しているうち、クルマ酔いをしなくなり、
クルマから見える外の風景を楽しみだしたように思う。
座席下で震えるようにしていたのが、
窓から外を見るようになり、助手席に上り、
ある日ついに運転席にやってきた。
そのときは高速に乗っていたので、ひやりとした。

ケージなり何なり使用すればよいと、たいていの人は思うだろう。
ところが天下無敵の自由犬として育った『ごお』のこと
ハウスがクルマであり、家そのものだったのだ。
生涯『ごお』は、ケージに入ることを嫌がった。
それに運転中ずっと左ひざに犬を感じるのも、捨てがたい感覚だ。

あっちこっちに行って一緒の車中泊。
楽しかったなあ。また行きたいね。

リタイア2005-10-04

ハート出版から出た郡司ななえさんの2005年7月刊行のもの。

『べルナのしっぽ』で多くの読者を感動させた郡司さんの新作と言うことなので、読んでみた。
『ベルナのしっぽ』では、盲導犬とユーザーの強い結びつきが
老いゆくベルナが盲導犬として働くことができなくなっても、
その臨終にいたるまでを一緒に暮らし介護しとおしたことが
盲導犬のけなげさと共に感動を与えた。

一愛犬家としては、この本で紹介されている出会いと別れについて
特別な感慨は抱きません。
むしろ盲導犬であることを止めるときの別れの寂しさは
ユーザーにとっては心の負担を小さくするために必要なことと思いました。
途中で何度も飼い主が変わるという事実が
時として誤解を生むこともありますが、
単なるペットであっても、その死が強烈な悲しみを伴わせることを思えば
半ば強制的にリタイアさせる仕組みは、
ユーザーにとっても盲導犬にとっても必要なことなのでしょう。

本作では、リタイア後の盲導犬の生活を追い
ボランティアによって余生を幸せに暮らす犬たちや
老犬ホームでの生涯を全うする犬たちを取材しています。
また、今作では様々な盲導犬ユーザーに取材し、
リタイアを決意した心の動きなども紹介しています。
浮かび上がってくるすべての関係者の姿は
私たち普通の犬と暮らす者たちと変わりありません。

愛犬の死を眼前にするより、リタイアによる別れが悲しくないということはありません。それぞれのユーザーはパートナーの幸せを心底望んでいるのだと教えられます。

一般の飼い主となんら変わることのない愛情を感じてください。

6点