幼獣マメシバ (全2巻) ― 2009-08-06
永森裕司 原案 柳雪花 著 竹書房 各648円
2009年初頭に放送されたTVドラマらしい。人気があったのか映画化もされて、漫画版も連載されているとのことだ。
この小説版はテレビドラマの11話分に映画版で展開されるであろうストーリーを盛り込んだものとなるようだ。テレビ版も映画も見ていないからなんとも言えないけれど、十分にほろりとさせる要素を盛り込んだ、充分に楽しい物語であるが、とてもふざけた作品との印象が堪えない。設定に無理がありすぎ、いったん気になってしまえば、もはや小説とは言えない代物と化すので注意が必要だ。絶対に疑問を差し挟まず、完全に受け身に留まり、消して考えることなくさくさくと読み進める心がけさえあれば、わくわくさえできるという摩訶不思議な小説だ。
主人公となる芝二郎は35歳、未婚、大学も出ているけれど、3キロ四方から出たことが無いという引きこもりである。資産家の家庭に生まれ、両親の庇護の下、ネット世界で遊ぶのが唯一の趣味という気弱な男である。友人もほとんどいず、親戚の郵便局員・財部陽介が唯一といってよい友人だ。外界のことをほとんど知らず、小さな小さなテリトリーの中ですら生き生きとは生きていけない。
そんな彼の父がある日他界し、次いで母が突然の失踪を遂げる。失踪にあたり生まれたばかりの柴犬を残して。犬なんて替えないと途方に暮れる二郎。そんな二郎が柴犬の首輪の赤いおまもりに気づく。なんとその中には謎のメッセージが。どうやらははの居場所に繋がるヒントのようなのだ。陽介に励まされ、柴犬の「一郎」を連れ二郎の母を探すたびが始まる。
なんと言うか芝家は大地主ていう設定で、誰も働かなくていいという設定になっている。引きこもりという設定だけれど、よくある家庭内暴力も無く、自傷行為も無く、他人とつながりをもてないというところは認められるけれど、完全な精神疾患というまでにはなっていない。非常に恵まれた境遇の設定なのである。
一郎の設定も生後2ヶ月にして、何もかもできるというあたり、違和感を感じたりする。
物語が進むうち、どんでん返しが用意されているけれど、そのとっぴさにあきれ返りもする。
それでも二郎の子育てをしようという母の決意がもたらすどたばたに引き込まれていくこと請け合い。
拍子の柴の子犬が可愛い。映像だともっと可愛いんだろうね。
2009年初頭に放送されたTVドラマらしい。人気があったのか映画化もされて、漫画版も連載されているとのことだ。
この小説版はテレビドラマの11話分に映画版で展開されるであろうストーリーを盛り込んだものとなるようだ。テレビ版も映画も見ていないからなんとも言えないけれど、十分にほろりとさせる要素を盛り込んだ、充分に楽しい物語であるが、とてもふざけた作品との印象が堪えない。設定に無理がありすぎ、いったん気になってしまえば、もはや小説とは言えない代物と化すので注意が必要だ。絶対に疑問を差し挟まず、完全に受け身に留まり、消して考えることなくさくさくと読み進める心がけさえあれば、わくわくさえできるという摩訶不思議な小説だ。
主人公となる芝二郎は35歳、未婚、大学も出ているけれど、3キロ四方から出たことが無いという引きこもりである。資産家の家庭に生まれ、両親の庇護の下、ネット世界で遊ぶのが唯一の趣味という気弱な男である。友人もほとんどいず、親戚の郵便局員・財部陽介が唯一といってよい友人だ。外界のことをほとんど知らず、小さな小さなテリトリーの中ですら生き生きとは生きていけない。
そんな彼の父がある日他界し、次いで母が突然の失踪を遂げる。失踪にあたり生まれたばかりの柴犬を残して。犬なんて替えないと途方に暮れる二郎。そんな二郎が柴犬の首輪の赤いおまもりに気づく。なんとその中には謎のメッセージが。どうやらははの居場所に繋がるヒントのようなのだ。陽介に励まされ、柴犬の「一郎」を連れ二郎の母を探すたびが始まる。
なんと言うか芝家は大地主ていう設定で、誰も働かなくていいという設定になっている。引きこもりという設定だけれど、よくある家庭内暴力も無く、自傷行為も無く、他人とつながりをもてないというところは認められるけれど、完全な精神疾患というまでにはなっていない。非常に恵まれた境遇の設定なのである。
一郎の設定も生後2ヶ月にして、何もかもできるというあたり、違和感を感じたりする。
物語が進むうち、どんでん返しが用意されているけれど、そのとっぴさにあきれ返りもする。
それでも二郎の子育てをしようという母の決意がもたらすどたばたに引き込まれていくこと請け合い。
拍子の柴の子犬が可愛い。映像だともっと可愛いんだろうね。
君と一緒に生きよう ― 2009-08-06
森絵都 毎日新聞社 1400円
森絵都は1968年生まれの作家。
児童文学で数々の受賞歴があるほか、『風に舞いあがるビニールシート』で第135回直木賞を受賞するなど、幅広く執筆し多くのファンを擁している。
本作はノンフィクションとして毎日新聞紙上に掲載されたものをまとめたものとなる。帯に「愛が無くては始まらない。愛だけでは救えない。」とあり、興味を惹かれ読むことにした。
書かれている内容は、
人の社会の中でさまざまに翻弄されていく犬たちの様子を伝え、
犬たちを救い伴に生きようとしている人たちの思いを綴っていく。
不要とされた犬たちが、その現状を知り状況を変えたいという思いや、
人の身勝手を許さないとする思いをもった人たちによって
再生されていく様を伝えている。
この国のあちこちで進行している命を軽視した
どこか狂ったペットをめぐる状況ををあぶりだすと伴に、
ペットに訪れる理不尽さに凛然とした思いを抱く活動家たちの姿から
社会の病理として暴いていく。
助けている者たちの姿は美しく描かれている。
啓蒙のために必要な書ではあると感じるところだ。
もし、アークエンジェルズ改めエンジェルズの活動を知らなければ、
静かな感動を感じていたのかもしれない。
そしてこれらの活動家たちに支援をしたいと思うに違いない。
作家の創作意欲というものは、
それ自体作家本人の意識を投影しているものに過ぎないとは言え、
影響力から考えればノンフィクションとして執筆するのならば、
取材は綿密にして欲しいものだと思う。
この作品の中で描かれている数々のエピソードは
犬たちと人のすばらしい交流のものばかりである。
だけれど現実は必ずしもすばらしいものばかりとは言えない。
保護する人たちにも、引き取る人にも、捨てる人たちにも、
それぞれに暗い暗いものはある。
一流の作家たるものが見えている表面にのみ目を向け
安易な感動物語を生み出すことの影響を考えて欲しいものだ。
本書にはワンライフの活動も収録されている。
プロジェクトXのナレーションばりにかっこよく語られている言葉の向こうでは、
保護犬がホスト宅で先住犬を噛み殺していたり、
大阪府和泉市でのブルセラ犬レスキュー活動では
いったん現場に入っていながら不可解な撤退を行っている。
また集めた支援金にも暗い噂が立っていた。
さらに現場から犬を持ち出し転売したというような噂さえ立っていた。
保護活動の中にある種の暗部が存在する。そのことを微塵も感じさせない。
こうした事実は調べればすぐに出てくる。
なのにこの作家はそうした暗部から目を逸らし続けていくのだ。
犬を助けている人たちを手放しで英雄視する。
こういう作家の態度、
またそれを美談として出版していくマスコミの対応に
一抹の不安を覚える。
こういう姿勢が保護団体の狂気を助長しているのかもしれない。
森絵都は1968年生まれの作家。
児童文学で数々の受賞歴があるほか、『風に舞いあがるビニールシート』で第135回直木賞を受賞するなど、幅広く執筆し多くのファンを擁している。
本作はノンフィクションとして毎日新聞紙上に掲載されたものをまとめたものとなる。帯に「愛が無くては始まらない。愛だけでは救えない。」とあり、興味を惹かれ読むことにした。
書かれている内容は、
人の社会の中でさまざまに翻弄されていく犬たちの様子を伝え、
犬たちを救い伴に生きようとしている人たちの思いを綴っていく。
不要とされた犬たちが、その現状を知り状況を変えたいという思いや、
人の身勝手を許さないとする思いをもった人たちによって
再生されていく様を伝えている。
この国のあちこちで進行している命を軽視した
どこか狂ったペットをめぐる状況ををあぶりだすと伴に、
ペットに訪れる理不尽さに凛然とした思いを抱く活動家たちの姿から
社会の病理として暴いていく。
助けている者たちの姿は美しく描かれている。
啓蒙のために必要な書ではあると感じるところだ。
もし、アークエンジェルズ改めエンジェルズの活動を知らなければ、
静かな感動を感じていたのかもしれない。
そしてこれらの活動家たちに支援をしたいと思うに違いない。
作家の創作意欲というものは、
それ自体作家本人の意識を投影しているものに過ぎないとは言え、
影響力から考えればノンフィクションとして執筆するのならば、
取材は綿密にして欲しいものだと思う。
この作品の中で描かれている数々のエピソードは
犬たちと人のすばらしい交流のものばかりである。
だけれど現実は必ずしもすばらしいものばかりとは言えない。
保護する人たちにも、引き取る人にも、捨てる人たちにも、
それぞれに暗い暗いものはある。
一流の作家たるものが見えている表面にのみ目を向け
安易な感動物語を生み出すことの影響を考えて欲しいものだ。
本書にはワンライフの活動も収録されている。
プロジェクトXのナレーションばりにかっこよく語られている言葉の向こうでは、
保護犬がホスト宅で先住犬を噛み殺していたり、
大阪府和泉市でのブルセラ犬レスキュー活動では
いったん現場に入っていながら不可解な撤退を行っている。
また集めた支援金にも暗い噂が立っていた。
さらに現場から犬を持ち出し転売したというような噂さえ立っていた。
保護活動の中にある種の暗部が存在する。そのことを微塵も感じさせない。
こうした事実は調べればすぐに出てくる。
なのにこの作家はそうした暗部から目を逸らし続けていくのだ。
犬を助けている人たちを手放しで英雄視する。
こういう作家の態度、
またそれを美談として出版していくマスコミの対応に
一抹の不安を覚える。
こういう姿勢が保護団体の狂気を助長しているのかもしれない。
最近のコメント