祭火小夜の後悔 秋竹サラダ2020-09-16

角川ホラー文庫の一冊。日本ホラー小説大賞受賞作。
帯の「新しい恐ろしさに惹かれて購入した。
おどろおどろしさは感じない。たんぱくな中に怖さがある。
特殊な能力を持つ霊能者が活躍するというものではなく、
知っているから対処できるという設定になる。

ここに登場する怪異たちは、
明確な意思を有し人に害をなす存在ではなく、
彼らなりの規範をもって行動していて、
彼らなりの理屈が時として人に障るという存在だ。

古い校舎で床板を裏返していく「あれ」。
たまたま返される板の上にいると飲み込まれてしまう。
夜に現れる奇怪な虫「にじり虫」
人に願うものを与える「しげとら」。
10年後に貸したものを取り立てに来る。
それぞれに不気味な存在であり、関わる側次第で恐怖をもたらす。
本質は無邪気なものでもある。

さてこれら怪異に遭遇した人たちを救うのは
日本人形のように長い黒髪の美しい祭火小夜である。
兄が教え残した不思議な存在の知識を持っている。
それぞれに怪異に出会った者たちにアドバイスを行い助ける。

助けられた者たちは小夜に恩義を感じ惹かれている。
そして中編ともいえる「祭りの夜に」になだれ込む。
3人の協力を得て過去に干渉する冒険譚になっている。
兄を殺した怪異と対決し、兄の死を阻止しようというのだ。
ここに登場する怪異が一番の恐ろしさを持っている。
なぜ小夜の兄が死に至ったかも明らかにされる。
結末はパラドックスがあるように思うが、深く悩んではいけない。
そんなことがあるもんだと読み終えるべし。

「祭火小夜の再会」は、続編。こちらも4つの連作短編である。
前作に続く時間の「証」は
小夜の中学時代の同級生・浦澤圭香の災難に始まる。
二つ目以降は小夜の中学時代が描かれる。
そこでの圭香との親密さを思えば「証」での関係が謎めいてくる。
その謎は4作目「レプリカ」で解き明かされる。
優しい怪異の存在に驚きを覚える。

ストリー展開がいい。こういうの好きだ