陣借り平助2010-09-14

宮本昌孝   祥伝社文庫   619円(税別)

宮本昌孝は1955年生まれの55歳。時代小説家として認められている。もとはアニメ脚本家、漫画原作者などで活躍していたらしい。『鉄腕アトム』などの進行に携わっていたということだ。1987年に田中光二原案のSFで作家デビューし、時代小説に軸足を移してきている。1994年発表の『家名豪将軍義輝』以降、本格的な時代小説を書いている。作風としては、史実を忠実にたどることより、史実と史実の間に自由度を求めるようなところがあり、伝奇小説的な色彩を持つ。

『陣借り平助』は2000年に発表された。発表当時食指を動かされたものの、つい購入を忘れていたものだ。

『陣借り平助』は、7つの小品からなる。全作品を通じて、足利義輝より拝領した4尺の長刀を引っさげ、丹風と名づけられた巨馬を従えた魔羅賀平助という巨躯を持つ架空の人物が主人公。将軍義輝に「百万石に値する」と激賞されるも、自らは立身出世を拒み、主なしの陣借り者に徹する。常名戦力ね劣るものの側につき、超絶の武でもって劣勢を挽回させる辺りが痛快。

1話目では桶狭間で織田信長、次いで六角と北近江の覇権菜を争う浅井家に、その後には関東で謙信と戦う北条氏に、次は川中島では武田方に、寛助の暗殺実行犯との因縁を残しつつ、その次は今川から独立する頃の家康に、それぞれ陣借りしていく。そのいずれでも圧倒的な武で勝利を引き寄せていくのだが、いづれの場合でも大きな勲功は他者に譲り、辞去していく。そこには常に優しさがある。圧倒的な武を持ち血に餓えた獣さながらでありにがら、飄々とした風情と功を譲り続ける姿が爽やかに感じられるのだ。

6話目では平助出生の秘密が語られる。また陣借り先もこれまでと趣向が異なる。商人同士の小競り合いに松永弾正が絡んでくる。弾正はかつて平助に煮え湯を飲まされ恨みを呑んでいる。平助の養家の商人と、弾正を味方につけた商人との諍いがおき、平助が活躍する。終わり方がみごと。

最終話では、養家の長男と伴に九州に赴く。長男の思惑から大村純忠に陣借りすることとなる。さまざまな要素が最終話では交錯しているため、、1-5話のような痛快さはない。

圧倒的な武を有するという点で、『一夢庵風流記』に似たテイストがあるのだが、背景となる世界観は龍作品と比べて理解しにくいところが弱点。

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