幻の城 大阪夏の陣異聞2010-09-13

風野真知雄   祥伝社   667円

風野真知雄は1951年の生まれの59歳。
時代小説家としては、耳袋秘話シリーズ等々、
かなり人気があるようだ。
市井ものや捕り物長なども書く一方で、福島県出身ということもあり、
しばしば北関東から東北を舞台にした
戦国時代を題材とした小説を書いている。
これまでぼくが読んだ風野作品は、『奇策』という作品のほか
『水の城 いまだ落城せず』
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2008/06/18/3583051
「われ、謙信なりせば」
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2008/08/15/3691370
と、その種類の作品で、どれも相当に楽しませてもらった。

『幻の城』は、これら東北を舞台にした作品とは異なる。豊臣家が滅亡する大阪の陣を舞台としている。

大阪の陣では真田幸村が後世に語り継がれる働きをした。他では長宗我部盛親や後藤又兵衛、毛利勝永等の浪人衆のほか木村重成の奮戦くらいしか大阪方に華は見当たらない。攻め方にいたっては大兵が動員されていて、先頭集団としての緊張感がなかったのか、ほとんど逸話らしいものは見られない。特に夏の陣では、寡兵で突撃を繰り返すだけの大阪方に、兵ばかりが多いという状況に陥り、徳川本陣が幸村によって脅かされるということになったと伝えられる。

後世に太閤びいきが、真田昌幸が存命だったら、加藤清正・福島正則が後詰したら等々、もしもを設定し物語を描いている。また、そうした可能性を想像させる熊本城の構造上の秘密や鹿児島に秀頼が落ち延びたという伝説もあり、ロマンめいたものとなっている。

本書の肝は、昌幸が幸村の取り扱われ方の予言に際して、昌幸が亡き後でも唯一全員を任せられる人物がいると言い残したところにある。

序盤は、昌幸が言わんとした人物の謎解き、中盤は豊臣一門衆ともいえる人物の状況、後半では精神を病みながらも的確な戦略を導き出す頭脳、最終盤で、昌幸やその人物が家康を嫌忌した理由が描かれている。関が原の役から考え抜かれていた戦略が、家康という慎重な男のために崩されているところで、結局は史実どおりに話が落ち着くところが、無理を重ねていないところでよい。

それにしても冒頭で猿飛佐助が死んでしまったのには驚いた。真田十勇士ものでは一番活躍著しいのに。

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