2005年のロケットボーイズ2011-10-03

五十嵐貴久    双葉社    750円

本作は2006年に「ロケットボーイズ」というタイトルでテレビ放送されたそうだ。
過去に読んだ五十嵐作品は、井伊直弼が部屋住みの折の鬱屈から、
ある姫への懸想を起こし、一藩を陰謀により窮地に貶める「安政5年の大脱走」と、
ダメな野球部が一人の天才投手が転校してきたことから、
依存から自立に向かうなかで変わっていく姿を描いた「1985年の奇跡 」
http://kumaneko.asablo.jp/blog/2009/03/07/4157669
の2冊がある。
いづれも大変によくできている作品だった。

この五十嵐貴久、経歴を見れば只者ではないのである。
本作だけではなく、202年のデビュー作「リカ」から
「交渉人」や「パパとムスメの7日間戦争」と、
青春小説からホラーにサスペンスと、多芸な作風を持っている。
この人の筆は次々に映像化されている。
人気作家のひとりになっているのだ。

「2005年のロケットボーイズ」は「1985年の奇跡」同様の、
学校生活に倦んでいる者たちの物語だ。
最初は、いやいや、取り組むこととなったが、
つながること、立ち向かうこと、
そうした前向きさで難関をクリアしていく物語になっている。

高校入試直前に事故にあい、本命の高校に入学できず、
工業高校に通うこととなった梶屋信介が語り部となる。
不本意入学のため愚痴を言い暮らしているうちに、
学校の有力者から不用な人物として宣告を受けたカジシン。
ごく少数の仲間とともに、パチンコ屋通いに喫煙と、
だらだらとした毎日を過ごしている。
仲間の一人がセットしたコンパで泥酔した挙句、
急性アルコール中毒で病院に運ばれる。

退院して学校に戻れば、思ったより寛大な処分が待っていた。
ただしキューブサットを作ることが条件となっていた。
仲間のゴタンダと一計を案じ、賞金を餌に優等生の大先生に図面を書かせる。
それが、なんと大絶賛、入賞する。
しかも賞金額は倍になっていた。
大先生には内緒で増えた賞金をゴタンダと二人で分け合って、
大散財をした挙句に所持金は底をつく。
そんな折、実は賞金は実際のものを作るための支度金との性格だったと知らされる。
辞退するには賞金の返納をしなければならない。
使ってしまったものは返せない。
何とかして設計の大先生を説得して、前に進んでいくしかない。
さて、カジシンたちの前途には何が待っているのか。

この小説の中では素行不良な学生や、
問題のある優等生や天才が登場する。
妙に義理堅く無口な落第生の翔さんなんて魅力的すぎる。
学校外からの助っ人も魅力的。
カジシンの元カノ彩子は、優等生だったのに高校進学を拒否している。
綾子の周辺にはあたくな大学生がひしめいている。
カジシンの祖父は優秀な技術者だったが、経営者としては失格者。
親父は、引きこもり。

一癖も二癖もある連中とともに、
キューブサット製作は進んでいく。

人生のターニングポイントを見出した者たちの、
きらめく青春が、なんといっても気持ちいい。

人工衛星の製作という物理学など子難しい知識が読むのに必要と
敬遠する向きがあるかな。
本作においては、まったくそんなものは関係なく進みます。
お気楽に読んでさわやかん余韻。
ええですなあ。