ボックス! (上下2巻)2011-10-12

百田尚樹    太田出版    各550円(別)

ボクシングを題材にした創作というと、
僕に思いつくのはマンガか映画しかない。
映画なら『ロッキー』、マンガなら「明日のジョー」、「がんばれ元気」、
「はじめの一歩」あたりがすぐに思い出せる。
トンでもボクシングなら「リングにかけろ」なんてのもあった。
じゃ、小説では何かあるかと記憶を探ってみても、
ほとんど何も思いつかない。
いくつかのハードボイルドでボクシングジムが出てきた記憶はあるが、
ボクシング競技者を描いた作品の記憶がない。
唯一思いついたのは、ギャリコの「マチルダ」くらいとお寒い状態だ。
この「マチルダ」にしたって、正統派のボクシングを扱ったものじゃない。
カンガルー・ボクシングというショービジネスものだから。
僕が、ボクシングに興味があまりないことも原因だろうが、
ボクシングを題材とした小説は案外に少ないのではないだろうか。

で、この「ボックス!」だけれど、
ボクシング競技の魅力の一端がわかる作品となっている。
初めて読んだボクシング小説となった。
ボクシング小説でありながら、青春小説でもあり、
どちらの観点で読んでも魅力的なものとなっている。
求道的であり、友情にあふれており、闘争心にあふれている。
登場する主要人物のいずれも個性的で輪郭もはっきりしている。

ボクシング小説としては、
練習シーン、試合シーンとも、臨場感と緊張感にあふれている。
アマチュアボクシングの採点法にも詳しく、
ボクシングの奥深さも知れる。

青春小説としては、
元いじめられっこの木樽の、練習に欠けるひたむきさが、
秘めていた天才を開花させていく過程は見ものである。
天真爛漫の天才・鏑矢の挫折と、友のために踏み台となる覚悟など、
読みどころは満載だ。
団体戦へ臨む恵比寿高校の部員たち一人ひとりの心のありようまで精緻に描いている。
鏑矢と木樽という幼馴染二人の厚い友情が染み入る。
そしてボクシングという危険なスポーツを通して結ばれる
敵・味方を超えた友情も読ませる。

敵役として配される絶対的王者・稲村の造形も秀逸。

見事な青春ボクシング小説だ。