暴力団2011-10-25

溝口敦    新潮新書    700円(別)

暴力とは無縁に生きる一般市民にとって、
暴力を持って無理を通す暴力団は怖い。
が、暴力団の構成員は暴力団員であることをこじるため、
わざわざ近寄ろうとせずに、危うきに近寄らずの精神で臨めば、
関係することなく一生を過ごすことも可能だった。
ところが近年では、暴力団ではないのに、
暴力を持って物事の決着をつけようとするものがいる。
暴力団にさえ対抗できない犯罪が生まれている。

警察を主体とした組織暴力封じ込めの流れは、
まず最初に暴力団という大門を掲げる者たちを標的にする。
だから暴力団は自然と脅威を低下させるとともに、
はぐれた者たちへの求心力を失い始めている。
判別の不可能な振興集団が生まれてきている。
暴力と無縁に生きる多くの人たちにとっては、
忌避すべき者たちの所在がつかみきれない様相となっている。

そうした日本のアウトローの状況を平易に解説しているのが本書である。

著者は、山口組など暴力団を長年取材している。
また創価学会など宗教に関しても一線のウォッチャーだ。
暴力団の取材では、自身や家族が襲撃される事件も起きている。

そういう著者がみている暴力団像は、細密であり、
一般人が対処する示唆に富んでいる。

広域暴力団というものは、人によっては必要悪であったというかもしれない。
ある意味では、社会からあぶれたものが集まり、
恐れられることで仲介の任に当たることさえ可能だった。
危険なものの所在をはっきりさせてきたのである。

その暴力団が、新たに生まれるあぶれ者たちにとっては、
魅力を感じない組織となっていて、衰退する組織と断じている。
代わって登場するのが、一事案ごとで結びつく集団というあたり、
脅威の質の変化への対応は、改めて考える必要がありそうだ。