階段途中のビッグ・ノイズ2011-10-26

越谷オサム    幻冬舎     600円(別)

著者は1971年生まれだというので、現在40歳。
この作品は2006年に刊行されているから35歳での発表となる。
これまでに7作品を発表しているようだが、僕が読むのは初めての作家です。
この作品ではロックがしたい高校生を描いています。
他のタイトルを見ても、中学生から、
せいぜいが社会人になりたての青年が主人公に設定されています。
だから、一貫して青春を書いているようです。
本作品を読んだ限りでは、さわやかな青春を描いていると思います。

神山啓人は軽音楽部に所属している。
ロックが好き。ギターが聞きたい。そのために部に属しています。
ところが軽音の先輩は音楽に身を入れるのではなく、
あろうことか麻薬所持で退校処分となってしまいます。
そのため、軽音楽部は廃部の危機を迎えます。
たった一人残された啓人は廃部もしかたないと諦めかけるが、
先輩の自堕落さに愛想が尽き部をやめた同級生部員の九十九伸太郎が復帰し、
啓人に、学校の理不尽さに抗うべきだと訴えてます。
伸太郎に引きずられようにして、強硬な廃部を主張する教員が多い中、
二人で部の存続のため校長に直談判を行います。
校長から与えられた条件は、文化祭“田高マニア”のステージに出演すること。
その日から二人は軽音楽部存続をかけ、部員集めと顧問教師を探し始めます。
ギタリストには上手いが協調性の欠ける嶋本勇作、
ドラマーには吹奏楽部で浮いてしまった岡崎徹が入り、
ベースの伸太郎と、ギターの啓人とメンバーはそろった。
顧問には、生徒から不思議に思われている加藤がついてくれた。

なんとか顧問もメンバーも集まったものの、練習場所は階段途中の踊り場。
風通しも悪い過酷な環境。バンドも意思疎通ができていなくてバラバラ。
とんでもない騒ぎを起こした軽音楽部を見る周囲の眼は冷たい。
アンプのスイッチを切れとまで他の部から言われる。
無事に文化祭までたどりつけるのか、それすら不安。

啓人が好意を寄せている水泳部の大野亜希、
その顧問でルールに厳格な森淑美。話せばわかるナイスな校長。
これらのわき役が、軽音部の活動に幅を持たせます。

亜季が中心となって軽音部へ応援をしていくあたりや、
顧問の意外な姿に驚かされます。

挫折から高揚へ。
青春小説はこうでなくてはね。

王様ゲーム2011-10-26

金沢伸明    双葉社    649円(別)

携帯サイト・モバゲータウンで最高閲覧数を記録した携帯小説らしい。
初出は定かではないが2009年頃と思われる。
『王様ゲーム』の続編『王様ゲーム 終極』、『王様ゲーム 臨場』も公開され、
若年層を中心に人気が沸騰し、紙媒体でもトータルで200万部を売り上げている。
現在は終章と位置づけられる『王様ゲーム 滅亡』が連載中とのことである。
さらに、今年に入っては「王様ゲーム」がコミック化されている。
こちらも人気となっているようだ。
いずれも順調なセールスを記録している。
また、「王様ゲーム」は映画製作も進行中で年末に公開される。

「王様ゲーム」が売れていることは、
書店でのディスプレイなどから感じていたし、
何人かの知人がなかなかいいよと言っていたので、
一度読んでみようかと思っていた。
ただ、単行本を買う気にはならず、未読のままでいた。
文庫化されたことで、買った。読んだ。呆然としている。

なんだこのつまらなさは。
買わなきゃよかったリスト入りだ。

文庫化に当たっては、全面改稿しパワー・アップさせたと書いているが、
ならモバゲーでの公開時は、この状態よりひどかったということなのか。
かつて山田悠介デビュー作「リアル鬼ごっこ」でも、
版が変わるたびに校正を施して物語の精度を上げていくという例があった。
携帯小説で人気が出、紙媒体になったものにも、そうした例は数多い。
だから版を重ねていくうちに進化する小説というものを否定はしない。
読者にやさしい改稿であれば、たぶん親切というものなのだろう。

だけれど「王様ゲーム」を読んでの感想は、
もともとの着想は、こういうのもありだとは思う。
わけのわからない命令に従わないと罰を受ける。
その命令者が謎のベールにある。
結構だ。途中で王様が誰かを探し回る展開も大いに結構。
わけのわからないゲームに翻弄され、
自殺に近いものが出るというのも大いに結構。
結局は、ただ一人を残して全員が死んでしまうのもありだ。
最後まで王様の正体を明かさないのも別にいい。
31人の死者の形態に残されたメールの謎も唐突だが許容範囲だ。

だけれど、僕にとっては、物語の背景に納得できるところがなく不満だ。
主人公となっている伸明と死者の家族のやり取りなどはあり得ないものだし、
王様ゲームの謎を追い広島へ出向くあたり、時間経過などに無理がありすぎる。
クラスメイトの行動にも不可解なものが続出する。

この改稿されたストーリー自でも、
プロット上の揺らぎを残していると感じる。
携帯小説でありがちな、
反応を見て展開を変更していくことが行われたのかもしれない。
で、出版後に整合性が取れない部分を訂正しようとしたが、
全体に手を入れきれずに破綻が残ったということなのかもしれない。

シリーズの端緒であるからの齟齬かもしれないので、
続編ではそうした齟齬がなくなっていると期待したい。
サバイバル・ホラーというには、何もかも足りないような気がする。
それと、なんでこんなに理由なき殺戮話が受けるのだろうと思う。
ノアールなども好きな僕だが、
こういうものが受ける世情というものには不快を覚える。


クラスメイト全員に”王様”と名乗る人物から命令メールが届く。
最初は実行が容易な命令で、面白半分に始めるが、
命令は次第にエスカレートしていく。
命令の理不尽さから、実行しなかった生徒が不審死したことで、
恐怖を感じ恐慌をきたすクラスメートたち。
死にたくない。命を懸けて王様ゲームは続いていく。