クラリネット症候群2019-03-19

乾くるみ   徳間文庫   590円

タイトル作と「マリオネット症候群」が収められている。

「マリオネット症候群」は、
誰かを殺せば自らの肉体を殺した相手に乗っ取られるという設定で進む。
最初の入れ替えが女子高生とあこがれの先輩の間で行われる。
ヴァレンタイン・チョコに毒薬が混入し
先輩が死んでしまったことで入れ替わる。
この男冷静なのか、自分に起きた現象に戸惑いながらも対処する。
女子高生は意識はあれど寸毫たりと肉体に働きかけられない。
さて、どうなるん?

映画「転校生」の方向に行くかと思いきや、
意外なことにどんどん意識が集まってくる。

まず母―これが実は父だったと驚きの展開。
実は母に嫉妬から殺害されていて入れ替わりが起きていたという。
殺されて気が付けば入れ替わりが起きていた。
自分の遺体を床下に埋め、母として暮らしていたという。
だから娘の異変に気付いた。
何とか二人でごまかして暮らしていこうと決意する。

ところが先輩には秘密の交際があり、その相手との間でトラブり、
今度は交際相手を死なせてしまい、入れ替わる。
そして女子高生と先輩は一つの肉体の中で出会うことになる。
女子高生のほうにも、幼少期に兄を事故死させていたことがあり、
実は思っていた事故で死んだはずの男の子だったと判明。
女子高生と妹、先輩の奇妙な同居生活に至る。
そして最後は、疲れ切った母(実は父)が娘を殺害。
ついに以下全員が勢ぞろい。
ある条件の下では一家だんらんの日々を迎えるのでした。ちゃんちゃん、と。

SFのようでもある、なかなかの怪作に仕上がってます。

ふと思うに過去記憶を引き継ぐ物語への皮肉かと。

「クラリネット症候群」は、
例の{パパからもらったクラリネット。壊れて出ない音がある}の歌詞が
作品の肝になる。
この処理の仕方が筒井の「残像に口紅を」を思い起こさせる。

ドレミが聞こえなくなった主人公が、
童顔に巨乳で人気の先輩と絡む会話シーンなど、笑える。
それがハードボイルドになるのだから恐れ入った。

どっちかといえば、やはりこちらが好みに合う。

でも時代がなあ。
ほしのあきは過去の人になってしまったよ。
そう、本書は2008年出版の古いものなのだ。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://kumaneko.asablo.jp/blog/2019/03/19/9049067/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。