任侠浴場2021-03-11

今野敏

なんというか、現代ではありえない設定だと思うのだが、
古き良き時代(があったと幻想を持つ)のやくざが登場するファンタジーだ。
任侠シリーズは「書房」2004→「病院」2007→「学園」2011を読んだ
それらに続いて2018年に単行本が刊行されたのが「任侠浴場」だ。
文庫化がなったので早速購入して読み終えた。
2020年には「任侠シネマ」が発刊されたので
いずれ文庫化されるだろう。楽しみにしている。
「任侠浴場」は、前作までと比べて事業スケールが小さく、
語り部たる日村の苦闘ぶりが目立たなくなって、
阿岐本組長がグイっと前面に出て活躍している。
笑いの要素が少なくなったように感じている。

阿岐本組は組長の下に代貸・日村いて
その下に武闘派の健一、元暴走族で運転が得意な稔、
引きこもり経験のある元ハッカー徹、女たらしの真吉
6名の小さな任侠団体だ。
阿岐本組は、なんと地域からも愛されているのだ。
阿岐本組長は人望があり全国に兄弟分がいる。
その顔の広さがあることから小さな組織であっても、
独立組織として存在している。
阿岐本組長は、素人に迷惑を掛けないを信条とする、
昔気質の任侠道を守り組員たちを躾けている。
また文化的な事業を好みなにかと関わる困った癖がある、
兄弟分から持ち込まれる、およそやくざには縁遠い、
文化的・公益事業の経営立て直しに取り組んでしまう。
書房を皮切りに、経営の行き詰った事業所を、
義理人情に則った任侠精神の視点で経営改善させ、
次々立て直した実績を持つ。

で、風呂屋なのである。銭湯なのだ。
今や町の銭湯は絶滅危惧種なのは衆知されている。
スーパー銭湯なんて言う、娯楽性を盛り込んだ、
風呂屋なんだか食事処なんだか、宿泊施設なんだか
悩んでしまうような代物ではなく、街の風呂屋なのだ。
バブルも、サウナも、色とりどりの入浴バリエーションもなく、
入口に土間があり番台があって男油と女湯に分かれていて、
それぞれに脱衣所と浴槽がある昔ながらの風呂屋なんである。
都心の、赤坂にある寂れた銭湯が今回の再建劇の舞台だ。

いったんは廃業して土地売却を企むも、
なぜか妨害が入り売却断念、経営を続けることにした。
阿岐本組の再建実績から、兄弟分の永神から阿岐本に依頼がある。
再建には何が必要か、阿岐本の目はどこに向けられるか。
例によって徹底的に清掃することに始まり、
阿岐本の目は家族の語らいのなさや、
施設運営が利用者本位になっていないことなどを見抜き、
経営者たちの意識を変えてゆく。
また土地売却の断念の原因を突き止めもし、
阿岐本の人脈で、ボトルネックの解消を図る。

痛快なことこの上なし。面白さ保証付き。
意外の銭湯振興策も知れて勉強にもなります。

50年ほど前には、まだ任侠道を感じさせる団体もあったが、
今ではお目にかかることはなさそうだ。
下っ端の組員も阿岐本の再建道楽を楽しみにしていたりもする。
そういう意味でファンタジーなのである。

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