世界は紙でできている2006-12-11

ココロ直   講談社   499円

コバルト文庫の一冊。2004年に発刊されている。
この人の作品は本作まではコンスタントに発表されているが、
その後ペースが落ち2005年に旧作の続編がひとつ発表された後、
現在はコミックのノベライズに移行しているようである。
どうやら読者に著者の世界観が飽きられてしまったということなのであろう。

コバルトはファンタジアやスニーカー、電撃などの、
新興のライトのベル文庫に押されているようだが、
赤川などを執筆人に迎えていた老舗なのである。
老舗といっても近頃は大ヒットがなく、行き詰まり感が強い。
その原因は編集方針が、
他社に比較して良心的であろうとしているところではないかと思っている。
コバルトの物語は、
大人が考える子どもの本としての限界を超えないのである。
そのこと自身は誇るべきことなのだが、
他社の売れるためにはなんでもありという出版に比べて、
物語の世界に刺激が少ないという点があるのだろう。

この『世界は紙でできている』という作品も、
そういう限界を感じる物語となっている。
著者自身の想像力にも問題があるのかもしれないが、
コバルトというブランドの限界が感じられる一冊になっている。
とは言え、自分の子どもがいるなら、この世界観で十分だと思っている。
現在流行っている物語の世界は、
人間の負の心に着目しすぎている気がしているのだ。
安定した世界を味わうことが、
不安定な世界観を受け入れるには、む必要不可欠と信じている。

高校生のトモカが、大地震の影響で異世界に飛ばされた。
その世界では紙が貴重品であり、
紙に念を入れることで兵器ともなる世界だった。
漆黒の髪を持つものは破壊者として忌み嫌われる中、
美貌の女性剣士オーディナリーに保護されたトモカは、
異世界の至宝『パピア・ローゼ』の再生に着手する。
トモカの動きとあいまって、陰謀が渦巻き、
登場人物たちの因縁が明かされていく。
トモカの運命は?

と、いうところなのだが、紙が貴重品といっておきながら製紙技術はあるとしている点などで、物語の進行に違和感がある。
トモカの帰還を目指す旅が続編として予定されていたようにも感じるのだが、
設定の強引さが、それを不可能としてしまっている。
物語として不可能なのではなく、
続編への期待感を喚起しにくいものであるという点だ。
物語自身は面白いところがあるので惜しい処理の仕方である。

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