夜中に犬に起こった奇妙な事件2007-03-12

マーク・八ッドン   早川書房   1300円

全世界で1000万部を売り上げるベストセラーだそうだ。
2003年に書かれた物語で、同年、邦訳も出ている。
現在42カ国で出版されているとのことである。

著者は1962年生まれで、BBCで脚本を手がけるなどしている。
自閉症者と共に働いた経験を基にして書いた本作品は、
イギリスでの著名文学賞を多数獲得し、
大人から子度まで幅広い読者から支持を受けている。

で、この本を買った動機です。
もちろんのこと書名に「犬」と打たれていたからです。
僕の読書なんて、強い思想性などありませんです。はい。
犬が活躍する小説に違いないと思って買ったのですから、情けない。
こんなに現代社会で「優しさ」を維持させるために必要なものへのヒントが、
盛り込まれている物語とは考えてもいませんでした。

読み始めて、いきなり犬が死んでいる。それも庭仕事用のフォークに貫かれて。
隣人のシアーズ夫人のプードルが腹にフォークをつきたて横たわっているのだ。
凄惨な現場なのに、語り口が妙に淡々としている。
冷静な行動に奇妙な違和感を感じるのだが、
語り口の外に悲しみと決意が感じられる。
感覚的なずれに目が眩んだ。

眩みの原因は、次節以降で語られる主人公の障害にある。
この作品の書き手とされているクリストファー少年は、
高機能自閉症とか、アスペルがー症候群と呼ばれる、
存在は知られているが実像への理解が十分とはいえない、
発達障害にあるのだ。

この障害を持つ人は、普通の人と違い環境の変化に対応が難しいとされ、
特定の手順を踏まなければ我慢できなかったりするらしい。
思考的にも、手順を重視し、一般的な反応とタイミングにずれが出やすく、
さまざまな点で誤解を受けやすい立場にいるのだ。

クリストファー少年は、フードルに死を与えた犯人を突き止めることを決意し
同時に、その捜査をミステリ小説としてまとめ用と決心して、
この物語を書き始めるのである。

マーク・八ッドンは、クリストファー少年が書いたミステリ小説という形で、
この物語を進めていく。

作中でのクリストファー少年の家族は、
父とペットのねずみ・トビー。母は2年前に他界している。
それからプードルの飼主・シアーズ夫人が家族に準じていて、
あとは養護学校の教員と、そこで学ぶ何人かが、
クリストファー少年の世界に住んでいる存在であり、
その他のものは、彼の世界には入り込めない。
非常に内省的で外部を遮断した暮らしぶりのクリストファー少年は、
一方で数学や物理学に天才とも言える才能を有し、
その記憶力は類がないほどに高い。

クリストファー少年は、プードルが誰が殺したかを追い続ける。
父は反対するし、人との会話は苦手である。
それでも、不慣れな他人との接触を取るなど、冒険に近い活動を開始する。
他人と話すうち、クリストファー少年は思っても見なかった事実を知り、
誰がプードルを殺したのかも知る。

知った事実により、彼はある決意をし、ロンドンを目指す。

クリストファー少年が成長していく様は感動的であり、
彼を取り巻く人たちの暖かさも見えてくる。
中でも父親の献身には、彼の尺度ですべてを着込んだという欠点があるにせよ、
すごい愛を見てしまう。
それが歪んだものだったかもしれないにしろ、
辛抱強く、献身的にいたのに、残念な結果になってしまっている。
母にも愛情はあったのだが、父との差に疲れ果てたという側面もあるだろう。
社会的には、こうした発達障害者の家族を支援するものの存在が、
いち早く構築されることが必要なのだと感じさせた。
父も母も真の救済からは遠いままで、この小説は終わっているが、
クリストファー少年が力強く未来を描いているところで、
物語が閉じられているので、この後にハッピーエンドが待っている。
そう信じたい。

とても大切なことを知った気がする一冊である。

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_ 興味津々 - 2007-03-13 18:40

我が家の愛犬はトイプードル。
ただいま3才♪の女の子。

とっても頭いいんだよ〜(^-^)。
人間の言葉が分かるみたい、と思わせるような賢さが
うちの愛犬トイプードルにはあるんだよね〜。

控え目だし、ムダぼえしないし、芸は覚えるし、毛は抜けないし、
といいこと多いんだけど、ちょっとストレスが溜まると自分の
モモの毛を噛んでしまうのが玉にきず。