アンクルトムズ・ケビンの幽霊 ― 2007-06-15
池永陽 角川書店 1300円
最初つまらん本なんだと思っていた。
意味深な題名の割りに、帯がやたら感傷的に見えたのだ。
「もう抱え込まないで。いつまでも、つながりあえるからー。」
しょうもない、くたびれた中年男の初恋感傷など、
読みたくもねぇ、なんて思っていた。
だけど、なんとなく印象に残っていて、心惹かれるてもいた。
で、発見してから長いときを経て再びであったとき、
もう一度じっくりと見定めることにした。
帯の裏も読んだ。最初の想像が思い違いだったように思えた。
で、読んでみようと決心した。
甘さよりほろ苦さが強い。
甘い感傷ではなく、苦さと卑怯さと裏切りに怖れる男の逃避だった。
それぞれに秘密を課抱え込んだ若者たちとの交流で、
過去からの逃避を清算し、現実と向き合うこころの再生を果たす男の物語である。
腕のいい鋳物職人ではあるが、
家庭内で屈折した思いを抱く章之。
才気に富んだ美しい妻に劣等感を持ち、
息子の奔放さに戸惑う。
仕事場ではタイからの不法就労者と社長の板ばさみとなり、
うつえつとした日々をすごしている。
一人の女性路上音楽家の唄に気を引かれ、
一人の女性の姿を思い出す。
遠くなった少年の日々、初恋の少女のことを。
その少女は在日朝鮮人である母と、
貧しくて小さな炭鉱にて出会ったのだ。
章之もまた、炭鉱で暮らす貧しさにあえぐ母子家庭に育ったのだ。
年上の少女は美しく、章之は淡い恋心を抱く。
だが、少女たちは章之を除く日本人から差別を受け孤立していく。
章之が可愛がっていた犬を少女たちが食べたと菊に及び、
ついに章之すらそっぽを向くのだ。
少女が北へ帰ると言い残し、章之に託そうとしたハーモニカ。
そのハーモニカをとりに来てとの約束からも逃げてしまう。
章之の過去が女性路上音楽家の面影から呼び起こされたのだ。
奇しくも、音楽家は章之の前に現れ、章之の日常をゆすぶり始める。
音楽家は在日3世だったのだ。
対からの不法就労者・在日3世との交流を通して、
章之は次第に純粋な人間の心を取り返していく。
彼らから背中を押され、封印した過去に向き合う章之。
過去が実像を取り戻すとき、読者にも風が吹いてくる。
その風がさわやかと感じられる人が、僕は好きだ。
家族の回復とは何か。家族とは何かという答のひとつがここにある。
戦後日本に残る醜悪な現状を盛り込んだ佳作だ。
最初つまらん本なんだと思っていた。
意味深な題名の割りに、帯がやたら感傷的に見えたのだ。
「もう抱え込まないで。いつまでも、つながりあえるからー。」
しょうもない、くたびれた中年男の初恋感傷など、
読みたくもねぇ、なんて思っていた。
だけど、なんとなく印象に残っていて、心惹かれるてもいた。
で、発見してから長いときを経て再びであったとき、
もう一度じっくりと見定めることにした。
帯の裏も読んだ。最初の想像が思い違いだったように思えた。
で、読んでみようと決心した。
甘さよりほろ苦さが強い。
甘い感傷ではなく、苦さと卑怯さと裏切りに怖れる男の逃避だった。
それぞれに秘密を課抱え込んだ若者たちとの交流で、
過去からの逃避を清算し、現実と向き合うこころの再生を果たす男の物語である。
腕のいい鋳物職人ではあるが、
家庭内で屈折した思いを抱く章之。
才気に富んだ美しい妻に劣等感を持ち、
息子の奔放さに戸惑う。
仕事場ではタイからの不法就労者と社長の板ばさみとなり、
うつえつとした日々をすごしている。
一人の女性路上音楽家の唄に気を引かれ、
一人の女性の姿を思い出す。
遠くなった少年の日々、初恋の少女のことを。
その少女は在日朝鮮人である母と、
貧しくて小さな炭鉱にて出会ったのだ。
章之もまた、炭鉱で暮らす貧しさにあえぐ母子家庭に育ったのだ。
年上の少女は美しく、章之は淡い恋心を抱く。
だが、少女たちは章之を除く日本人から差別を受け孤立していく。
章之が可愛がっていた犬を少女たちが食べたと菊に及び、
ついに章之すらそっぽを向くのだ。
少女が北へ帰ると言い残し、章之に託そうとしたハーモニカ。
そのハーモニカをとりに来てとの約束からも逃げてしまう。
章之の過去が女性路上音楽家の面影から呼び起こされたのだ。
奇しくも、音楽家は章之の前に現れ、章之の日常をゆすぶり始める。
音楽家は在日3世だったのだ。
対からの不法就労者・在日3世との交流を通して、
章之は次第に純粋な人間の心を取り返していく。
彼らから背中を押され、封印した過去に向き合う章之。
過去が実像を取り戻すとき、読者にも風が吹いてくる。
その風がさわやかと感じられる人が、僕は好きだ。
家族の回復とは何か。家族とは何かという答のひとつがここにある。
戦後日本に残る醜悪な現状を盛り込んだ佳作だ。
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