カフーを待ちわびて2007-06-08

原田マハ   宝島社   1400円

2006年に第1回「日本ラブストーリー大賞」を受賞した作品だ。

僕は恋愛小説というジャンルが苦手である。
甘~い結果が見え見えになる小説というのが、
ラブストーリーの持つ宿命であり、
これが別れては恋し、また別れまた恋をしてというものとなると、
ノアールめいてきたりで、どっちも苦手なのである。

大体、僕に恋愛はわからない。
わからないものが恋愛小説を語ったって、何の説得力とてなかろ。
「今会いにいきます」
「世界の中心で愛を叫ぶ」
などもラブストーリーなのだろうが、
世間の評判とは裏腹な評価を僕はしていたりする。
ちゅうことで、以下の感想を読んでね。

計算されつくした感動の要素をかき集め、
今注目のスローライフと、
ちょっぴり自然をミックスさせたらできましたという作品。
沖縄地方の素朴な感性を持ち込んでいるように見えて、
その実態は、雰囲気のみをなぞって見せたに過ぎないと見受けた。
およそ登場人物に「生」の息吹が感じられず、エピソードも薄っぺら。
売れる要素を単純に盛り込んだたけの作品であり、
さくさくと読めるが余韻はない。
映画化がなされると書いてあるが、
沖縄の自然にすがったものにしか成りえないように思う。


まあ、恋愛の成就が困難になっている人には、
格好の安定剤になるという程度か。

右手が親指以外が癒着している青年と、
薄幸の美人・「幸」との出会いと再生を描く。
物語の語り手が「明青」、その飼い犬が「カフー」=果報。
彼が奉納した絵馬を見て訪れてくる女性が「幸」。
その関係が劇的なものであるにも拘らず、
最後に手紙で不自然な告白で「幸」本人が語るところは矛盾を感じる。
「明青」の友人たちの態度も不自然だし、
彼らの仕打ちに対しての「明青」の反応も常識に外れている。

あげつらえばきりのない人間関係の希薄さだが、
ただひとつ、ラストのシーンのあり方だけは、
善悪を飛び越えて、ちょっぴり感動的。

「明青」君、永久の彷徨い人になってないかい?

グレイ3部作ほか2007-06-08

ブログを開始したころアマゾンにためしにレビューを載せていたことがある。
このブログに収録していないものを現場から拾ってきた。
現場は↓
http://www.amazon.co.jp/gp/cdp/member-reviews/A2B47MW23CUVXT/ref=cm_pdp_reviews_see_all/503-1019493-3390329?ie=UTF8&sort%5Fby=MostRecentReview

これまでにブログで公開していないレビューは4点
グレイ3部作と「いま、会いに行きます」

「グレイのしっぽ」 伊勢 英子著 エディション: 文庫 ¥ 600

本当は5つ星。だけれど…, 2005/9/23
てんかん、癌。そして別れ。
この思い出を書くために費やす意志の強さに敬服する。
命が命でなくなっていくとき、
グレイがほかの何かに変貌していくとき、
伊勢さんたち一家は張り裂ける思いを味わったはすだ。
哀しくて、悲しくて、そしてつらい。
もの言わぬグレイが漏らす悲鳴で心までつぶれていく。
そんな毎日が連続する中、ほんの一瞬グレイがグレイでいる。
その一瞬を、一瞬の輝きを捉える筆は痛ましい。

死に臨むグレイを抱きしめる伊勢さんの胸に去来する思いは
すべての犬を買おうとするものの叫びでもある。

第一作でつぶやいた言葉、
『グレイは待ってやいやしない。…待っていたのは私らしい』
だったかな、(うろ覚えですみません)
その言葉の意味が本作にある。


「気分はおすわりの日」 伊勢 英子著 ¥ 560

病気。負けないぞ。, 2005/9/23
グレイ3部作の真ん中。
命が大爆発した前作に比し、別離が忍び寄る影を感じさせるのが本作。

グレイの振り返りながらの『ねっ』はいとおしい。


「グレイがまってるから」 伊勢 英子著

ペットを飼うなら読め!, 2005/9/23
犬を飼い始める決心をしたその日から
その人の目は、それまで見えなかったものが見えるようになります。
楽しいことがいっぱい。微笑がいっぱい。そして哀しさが訪れることも。
すべての愛犬家が、言い尽くせなかった喜びと、命の賛歌。
それらが伊勢さんの柔らかな文章と暖かいスケッチで伝わってきます。
グレイ3部作の劈頭を飾るエッセイ群は
すべての人の目を啓かせ、生きるすばらしさを、生命の爆発を感じさせます。

本書を読み終えた後、きっと犬と一緒に歩きたくなる。
             きっと抱きしめたくなる。

小学校高学年から中学生に特に勧めたい。
そして、下ばかり向いて歩く大人にも。


「いま、会いにゆきます」 市川 拓司著 単行本 ¥ 1,575

種明かしさえなかったら, 2005/9/15
物語自身はどうということのない『愛』の物語
それなりに感動できるだろうし
一般受けもしよう。
『せか中』とか『さくら』などと一緒で、
たぶん毒にはならないという意味で同列。
最後さえなければ童話としてよかったが、
おいおい、作品を締めくくるのに
ファンタジーにしてしまうの禁じ手でしょ。
あまりにも貧困な結末でじんわり感が消し飛び
投げ捨ててしまいました。
3つの作品のなかでは僕にとっては最低。
映画もドラマもヒットしているらしいが、
こんなので喜んでいるとは、
読み手の頭が単純になってきているのか。かなり心配。
それとも著者に馬鹿にされているのか。読後感最低。

どうせSFにするのなら
『四日間の奇跡』くらいに大胆にしてたら、4ツ星くらいになったかも。