バッテリー2007-06-16

あさのあつこ   角川文庫   552円

映画化もされた作品。
コミックも連載中で、相当に人気があるようだ。
児童書に分類されているようだが、大人が読む書籍としても評判が高い。

前から気になって読んでみようとは思っていたのだが、
なかなか潮合がつかず放置していたのだ。
やっと余裕ができたから、読み始めたのだが、
異様な迫力があり、一挙に引きずり込まれてしまった。

登場する子供たちのキャラが立ちすぎているといってよい。
この全6巻の物語を通しての主人公は、
題名どおり、原田巧と永倉豪のバッテリーである。

中学入学を目前にした原田巧が、
山間の地方都市に引っ越すこととなる。
小学生にして天才といわれる投手である。
自身の才能に自信を持ち、他者への迎合の一切を断ち切り、
傲慢といえる冷静さで、自らを律している。
その巧の前に現れたのが永倉豪。
巧の球にほれ込み、彼のボールを捕手として受けることを熱望している。
ぽかぽかと暖かい人柄は巧とは対照的である。

そんな二人が出会い、衝突していくのが第1巻の本書だ。

ほかに、巧にない強靭さや洞察力を持つ病弱な弟・青波
豪の幼馴染の子どもらしさを残す沢口・東谷など、
リアルな子供たちが多く顔を揃えている。
天才ゆえの隔世感を持つ巧は、
彼らと交わることで緩やかに、穏やかさを感じていく。

天才ゆえの傲慢さが、周りに影を落とすとき、
親でさえ巧にいらつき惑わされる。
まして、ただの少年は惑う。中途な才能の持ち主は嫉妬する。
そうした他者の感情を切り捨てて存在し続ける巧の行く末が、
豪というかけがえのない捕手との融合がなければ行き詰まると感じさせる。
そして、巧という天才に翻弄されていく豪の苦悩を暗示しているのが、
本書である。

恐ろしい世界が描かれている本書は、間違いなく絶品だ。